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ペルシュの持続可能な農業

ペルシュの”持続可能な農業”

21世紀姉妹都市の可能性を探り訪問した、フランスの町”ラループ市”。
(ラループ市に訪問した際の記事はこちらから)

ラループ市の取り組みと共に、ジェルデ議員にご紹介いただいた活動がありました。
同じオルヌ県に位置し、ラループ市の隣町であるペルシュ地域の”ペルシュ地域自然公園”が取り組むPAT(Project alimentariese locations)。日本語に訳すと「地域圏食料プロジェクト」です。
「持続可能 農業 フランス」などのキーワードで検索するとネット上で情報がヒットするPATの取り組みですが、実際その活動の詳細はネット上ではなかなか実態がわかりません。

このPATの取り組みは内容として岩手町にとっても参考になることから、今回、ラループ市への訪問の中でその実情を調査しました。

【PATの制度活用とペルシュ地域自然公園の役割】

PATはフランス全土で進められている取り組みで、大きな目的は「生産者、加工業者、流通業者、地方自治体、消費者をより緊密に結び付け、地域圏内の農業と食料の質を向上させること」です。

今回お話しを伺ったペルシュ地域自然公園のプロジェクトリーダーによれば、

「私達は食料の地産地消を長期目標に、持続可能な農業への移行を手段として、PATを活用し、複数のプロジェクトを発足。EU、国、州の制度を活用しながら、外からの資本ではなく、自分たちのリソースを主にしたプロジェクトの運営を目指しています。」

とのこと。

フランスでは51の指定地域自然公園があり、地域の”持続可能な開発”に対する戦略を立てる役割が求められる存在で、ペルシュ地域自然公園は”コーディネーター”としてその役割を果たしていました。

ペルシュ地域自然公園は2019年から活動をスタートし、様々な調査や分析を行い、2020年には分析結果が得られ2021年にアクションプランが決定。2021年の秋に正式に国から認定され、補助金の支援を受けPATの活動がスタート。

ペルシュもラループ市と同様に農業地域であり、岩手町と似た環境を持っています。多様な農業を進めており、作物の栽培から牧畜まで幅広い農業を展開しています。

SDGsの達成は経済発展と共にありますが、リーダーからもこんなお話しがありました。

「農業と食品を糧にして、市民の健康だけではなく、この地域を経済の視点でも発展させていくことを目指しています。全てのプレイヤーが協力しながら農業、食料プロジェクトを進めることで、経済循環へと繋がります。」

全てのプレーヤーとは、市民、生産者、食品加工などを行う地元企業、地元の小さなお店、その他経済関係のステークホルダー、食糧援助をしているような団体、技術者、研究者、給食センター、そして市議会議員などを指しているとのこと。地域経済を活性化させるプレーヤーが勢揃いです。このような多様なステークホルダーをまとめていくにはコーディネーターの存在が不可欠ですが、この公園がそのコーディネーターとしての役割を担っています。

【地域内で生み出す”スーパーフード”の需要と販路】

「スーパーフード」という言葉を聞いたことはありますか?
スーパーフードとは「一般的な食品より栄養価が優れている食べ物で、食歴が長く何世紀にもわたって人々の健康に寄与してきた食品」のことを指します。
ペルシュ地域自然公園がPATとして複数のプロジェクトを進める中で、一番力を入れているプロジェクトとして、ノルマンディーの農業会議所と共に進めている「乾燥豆の生産と販路の拡大プロジェクト」のお話を伺いました。

主に生産し、生産量を拡大しているのは主に下記作物です。
・レンズ豆
・ひよこ豆
・そら豆
・小豆
・インゲン
・ルーピン豆

一つ一つ調べると、その栄養価の高さに驚きます。まさに「スーパーフード」。
日本ではなかなか聞かない食材で、知らない人も多いのではないでしょうか?
実際にはフランスでも一週間に1回食べる程度で、まだまだ認知も需要も小さいという状況のようです。需要も小さいので現在は約70% が安価な輸入品です。
このような作物を広めるメリットとしては大きく2つあります。

① 植物プロテインに優れ、肉と同程度のプロテインが確保できるにも関わらずそれが非常に安価に取得できること
② 窒素を土壌に固定する機能があり、土壌改善を行う力があること

乾燥豆のプロジェクトは、ノルマンディー州とEUの支援も受けています。なぜ支援を受けられるのかというと、”乾燥豆の生産量を倍量にする”ということが国の方針として決定しているからです。
フランスといえば、ビオ(オーガニック)を推進している国として世界を牽引しています。フランスのスーパーでは下記ラベルをいたるところで見ました。

これは「ABラベル」といい、フランス政府(農産省)によるオーガニック認証で、化学肥料の使用禁止に基づき1985年に誕生した認証です。
第二次世界大戦後、農業国として早くに発展したフランスは、農薬や化学肥料による土壌の衰退、健康被害の発生も早く、持続可能な農法により生み出された食品が環境だけではなく人の健康と経済も健全にするという方針をとるのも早かったのです。
実際ジェトロの報告によると、ここ10年でビオの市場は約4倍に成長、野菜やフルーツなどの生鮮食品(約15億ユーロ)では有機専門小売店(44.9%)での購入が一番多く、マルシェなどの直売での購入も21.0%を占めるほど生鮮食材の地域内の流通が大きい国です。
地域経済を大きくするのに供給と需要のバランスを整え、生産力と販路拡大し経済効果を生むまでに多くの時間とリソースが必要です。経済効果を生むための火種を生み出す手助けをしているのが、PATの制度であることが分かりました。

【長期目標達成に向けた、小さな一歩の積み重ね】

乾燥豆の生産量は2019年にサウンディング調査を行った結果、地産地消を目指した場合100haほどの農地が適量であることが分かったそうです。


「プロジェクトはスタートしたばかりで、経済効果を生むには生産量が足りていません。まずは生産量を上げることからスタートしています。昔と比べると消費量は1/4ですが、生産量を拡大することで、加工食品の開発も進み、付加価値が生まれ販路拡大も進められます。今のところは農場や生産者の共同売店で販売している程度で、乾燥も動力をかけず、納屋で天日乾燥で賄える量です。今の課題は選別機が不足していること。少しずつですが認知を広め、経済効果が生まれるサイクルを大きくしていきたいですね。」

認知もまだまだ低い中で、まずは住民とのコミュニケーションをとても大切にされています。
活動を広めるために”レシピコンクール”を開催。
住民からレシピを募集し、人気であったレシピを集めたレシピ本を作成。賞を獲得したレシピは中学生が考えたレシピもあったそうで、学校にも活動が浸透し始めているとのことです。食育にもつながっていますね。
「このプロジェクトで大切にしているのは”地産地消”です。そしてもう一つ大事なことは、経済効果を生み出すこと。この2点を軸に、政府の政策目標である”乾燥豆の生産量を倍量にする”という大きな目標のもと動いているので、着実に前に進んでいます。」

【フランスの制度活用から学ぶこと】

日本の農林水産省や環境省も有機農業を推進しており、様々な支援制度がありますが、ペルシュ地域自然公園のPATの活用のように、制度をうまく活用しながら、小さなアソシエーション(組織)がプロジェクトのエンジンとなり、町民を巻き込みながら事業を生み、雇用を生み出しています。日本の農業の現場は大規模農家が少なく中小農家が多いことが特徴の一つです。岩手町も同じような環境にあります。そのような中で、PATのような小回りの効くモデルを学び、自分達の地域の農業の現場にこのような取り組みができないかを検討することは参考になる点が多いでしょう。

PATの運用から特徴的と言えるのは制度を”ツール”化して運用しているという点です。地域圏の農業と食料の調査を行い、その結果にもとづいてオペレーショナルな行動を特定し、関係者をコーディネートしネットワークを拡大していくという一連のサイクルをPDCA的に制度をツールとして上手く活用することで実現しています。日本の自治体でも参考になる取り組みです。

乾燥豆のプロジェクトの次のステップは、給食関係の方に、このようなスーパーフードの使い方やメリットを伝えていく活動を進めていくとのこと。ラループ市の給食の活動とも親和性が高いことから、このような取り組み同士が掛け算されることで大きなシナジーが生まれる土壌が形成されていく可能性があります。

また、ジェルデ議員は「この活動も時間がかかることで、明日からすぐに健康になれるわけではありません。この50年で食生活が大きく変わりましたが、子どもたちの価値観も大きく変わっていると感じます。スマートフォンでバーコードを読み込んで原材料を把握してから、食品を選ぶ子供たちが増えてきている。子供の教育に力をいれることで、親も変わってきている。非常に未来を感じます。このプロジェクトは2023年も国の援助を受けて、続けていく活動です。」とおっしゃっていました。

ジェルデ議員は町民を巻き込み、プロジェクトの意思決定を早めるための大きな役割を果たされています。
フランスの自治体では、持続可能な農業と町民の健康の推進を目標に、制度をうまく活用しながら有機的にいくつものアソシエーションが連動してシナジーを生み出しています。
21世紀姉妹都市連携を通して、国境を超えシナジーを生み出した先に見える未来に大きな可能性を感じ、日本でも参考になる点が多々あることを教えていただきました。

<参考文献>

https://www.parc-naturel-perche.fr/

https://fr.wikipedia.org/wiki/Parc_naturel_r%C3%A9gional_du_Perche

https://www.jetro.go.jp/agriportal/trends/paris/data.html

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr/28/1/28_29/_pdf

https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/attach/pdf/itaku31-11.pdf

https://www.jetro.go.jp/agriportal/trends/paris/data.html

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