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”給食”から市内の経済循環を生むフランスの街

”給食”から市内の経済循環を生むフランスの街

岩手町の基幹産業の一つが農業です。土壌にも恵まれ、東北一のキャベツ生産量を誇っています。キャベツを筆頭に東北の食料供給地としての存在感のある岩手町ですが、一方で課題も山積しています。岩手町の持続可能なまちづくりにおいて農業の課題解決は重要ですが自分たちだけではなかなか解決策が見いだせないということもあります。

そこで岩手町では、同じようにSDGsに真剣に取り組みながら共に解決方法を模索できるような自治体パートナーとの連携を「21世紀型姉妹都市」として探してきました。
その中で交渉先の一つにあがったのが西欧最大の農業国であるフランスの「ラループ市」です。

ラループ市と岩手町

フランスは約36500程の自治体があり、日本の約1700の自治体数を20倍以上を超える自治体が存在します。自治体の規模は非常に小さく、数百人単位の自治体も数多くあり、そのため自分たちで地域を守る、という自治の意識が非常に強い国です。
今回訪れたラループ市は人口は約3500人ほどでパリの南西に位置する町です。Google検索でも日本ではなかなか情報がヒットしない町。フランスの日本大使館や関係者のご協力を得て今回の訪問となりました

岩手町と同じようにラループ市も農業が主力産業の町。農業を推進する中で岩手町が目指すべき未来の一つなのではと考えさせられる取り組みがありました。

それは”給食”の改革です。

ラループ市はパリから車で約2時間半の町です。大きな販路としてパリという一大消費地を持ちながら、ラループ市内で有機野菜の質と流通量を上げ、市民の健康と経済を守る活動を給食制度の一環で産官学が連携して取り組んでいます。

今回お話しを伺えたのはラループ市議員のジェルデさん、ラループ市と連携を組んでいる隣町の中都市にあたるシャルトル市議員のジラルドさん、そしてラループ市の有機農業と給食制度の改革の中心人物となるジャンヌビアルさんです。

【フランスの給食を変えた法律】

フランスで2018年に施行されたエガリム法。
農産物の価格が上がらず生産コストだけが高騰する中で、生産コストに基づいた適正価格を目指し、持続可能で高品質な野菜の流通を保護するために策定された法律です。
エガリム法により、学校給食に20%のオーガニックを含む50%の高品質の食材を取り入れるという大きな目標の元、年間35億食にもなる給食や病院食などにオーガニック食材の使用が義務化されたのです。
この法律をきっかけにラループ市の給食制度にも大きな改革が起きたと、ジャンヌビアルさんはお話しされます。

「ラループ市では年間約40トンのオーガニック野菜が使われるようになり、この量を扱えるようになると小規模農家にとっては一つの大きな販路になります。約30箇所の給食センターでは5000-6000人の人に給食を提供しており、市内のオーガニック野菜の流通量が増えました。」


※日本も農林水産省が2050年までの目標として「みどりの食料システム戦略」を策定、有機農業の推進をさらに進めるために日本も見習うべきと、エガリム法が施行されたフランス自治体への視察がスタートしています。いずれ日本でも同じような法律が施行された時、ラループ市のこのような高品質で持続可能な食料提供の先進的な取り組みを岩手町が先駆けて学び取り組んでいたとしたら…

【シェフが作る”給食”】

しかし、法律が出来たからといって有機野菜そのものの生産量が急に上がるわけではありません。そのため有機野菜が流通し、一気に給食に利用されるようにはなりませんでした。
そして、有機野菜を使うことも大切ですが、給食は何といっても美味しいことが大切です。それし子供たちの毎日の幸せを育むとともに、食育にもつながります。

ラループ市ではシェフが有機野菜をふんだんに用いたメニューを日々開発し、調理しています。
今回訪問させていただいた際に、ちょうど栄養価も考えたデザート開発を試行錯誤されていた真っ最中でした。

下の写真のスイーツ、主となる食材は何か想像がつきますか?

正解は…白インゲン豆!

私たちはいくつもお野菜の名前を上げましたが、全く正解することが出来ませんでした…。
ほどよい甘さで、食べ応えもあって、非常に美味しくいただきました。子供たちの人気メニューの一つになっていくのだと思います。


有機野菜を給食に取り入れようとする動きは日本でも見られますが、エガリム法のような制度化が進んでいない日本では給食の現場に有機野菜を導入するということ自体が非常に難しく、企画が頓挫してしまう事例も数多くあります。しかし、法律があるからといって一朝一夕にそのような取り組みが進むわけではありません。法律を活きたものにするために、今回の訪問でコーディネーターとして活躍されているジャンヌビアルさんが果たしている役割が、非常に重要であることが見えてきました。

 

【農と食から地域を強くするラループ市のアソシエーション】

「有機野菜の供給量を増やす活動は小規模農家さんからの声がきっかけでした」
そうお話しされるジャンヌビアルさんは非営利団体の運営を通して給食の改革を進めています。EUや州からサポートを受けながら、ラループ市の生産者、シェフ、市民、そして議員や民間企業をコーディネートし、「給食を通して有機野菜の供給量を増やし、市内の経済循環を促進する」というゴールに向かってアソシエーション(*1)を動かしています。
今では地域の生産者さんにとって、”給食”は一つの販路として魅力ある選択肢の一つとなっています。
「プロジェクトを円滑に動かすための1番の課題はロジスティックスを担える人がいないことでした。生産者とシェフを繋ぐためにも、オンラインでプラットフォームを立ち上げることから始め、関係者を繋ぐためにカタログなどを発行してコミュニケーションを促すことを大事にしています。またお互いの理解が深まるよう、シェフには有機野菜をまず食べて美味しさ知ってもらい、調理方法を育成するプログラムなども作成しています。」
とジャンヌビアルさんはお話しくださいました。

ラループ市では20年前からセントラルキッチンが主流になり、効率性が求められるようになった中で、市内の有機野菜を活用することは、給食メニューを開発し調理を進めるシェフにとっては簡単なことではありません。

またジャンヌビアルさんがコーディネートしているのは、生産者とシェフだけではありません。
「私たちは今日この機会をジェルデ議員、ジラルド議員がセッティングしていただいたように、議員の皆さまとも協力体制が組めています。意思決定のスピードを上げながら市民とのコミュニケーションをとても大切にしています。」
今回の訪問でジェルデ議員、ジラルド議員、ジャンヌビアルさんのみなさまが口を揃えて何度もお話しされたことがあります。
「このプロジェクトは20年くらいで進めるべき長期プロジェクトです。すぐに結果が出ることではありません。しかし、みんなで同じ方向を見て長期的に協力体制を組むことがとても大切なのです」

岩手町SDGs未来都市共創プロジェクトもスタートして3年が経とうとしています。
少しずつ国内のネットワークが広がってきた中で、国境を超えて目指すべき姿の一つを見せていただいたような気がします。

岩手町では今後もラループ市とどのような連携ができるかを模索していきます。

ご興味がある方はぜひお気軽にお問い合わせください!

 

(*1)アソシエーション:共通の目的や関心をもつ人々が、自発的に作る集団や組織。

<参考文献>

https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2022/11/22110462630.php

https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2021/05/21051351217.php

http://www.geoc.jp/rashinban/event_detail_39365.htmlhttps://aichi-pu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=3844&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=13&block_id=17https://www.soumu.go.jp/kouiki/kouiki.htmlhttps://ja.db-city.com/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9–%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AB%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%9C%8F–%E3%82%A6%E3%83%BC%E3%83%AB%EF%BC%9D%E3%82%A8%EF%BC%9D%E3%83%AD%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E7%9C%8C–%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97

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