沼宮内高校2年生の探究プログラム
高校生の時期は、進学や就職といった将来の選択を意識し始める時期です。けれど、「働く」とは何かを本当の意味で理解するには、教室の中だけでは得られない学びもあります。地域の課題に向き合い、人と関わり、自分たちで考えたことを実際に形にしてみる。そうした経験の積み重ねは、社会に出る前の大切な土台になっていきます。
沼宮内高校2年生の総合的な探究の時間では、2021年から「企業活動体験プログラム」に取り組んできました。岩手町の地域課題や地域資源を題材に、生徒がチームで企画を立て、地域の人たちと関わりながら実践活動まで行うプログラムです。2021年からの5年間で、受講者は約163人、企画数は31、実践活動数は20、連携機関はのべ約36以上にのぼります。毎年見直しと改善を重ねながら続いてきたこの取り組みは、今では沼宮内高校らしい学びの一つになっています。
移住を考えるご家庭にとっては、「高校生になったとき、地域の中でどんな学びや挑戦ができるか」は、暮らしを考えるうえで大切な視点の一つです。町民の皆さんにとっても、このプログラムは、次の世代が地域とともに育っていることを実感できる取り組みではないでしょうか。岩手町が進めるSDGs未来都市の歩みの中でも、こうした人材育成の実践は大きな意味を持っています。
本記事では、あらためてこの5年間のあゆみを振り返り、沼高生や地域の変化をまとめました。
2021年 地域課題をもとに企画を考える
プログラムの出発点となった2021年は、将来の選択肢の一つとして「起業」を知ってもらい、人生を豊かにするきっかけをつくることを目的に始まりました。岩手町の社会課題を起点に、擬似的に会社を立ち上げ、課題解決型の事業を企画し、発表するという内容です。対象は2年生42名、企画数は11でした。
この年の学びは、「地域の課題をどう捉えるか」「それをどう事業として組み立てるか」を考えるところにありました。収支計画や地域資源の生かし方について、起業家として活躍するコメンテーターから鋭い指摘を受ける場面もあり、社会に出る感覚を少し先取りするような経験になったことがうかがえます。

「収支計画上の懸念」や「岩手町の良さを生かした点があるか」など、起業家として活躍するコメンテーターからの鋭い指摘もあった
2022年 企画から実践へ。「働く」を体験する形に進化
2022年は、起業というテーマに向き合う前に、まずは仕事や企業活動そのものを体験的に学ぶことが必要だという気づきから、プログラムの形が見直されました。企画立案にとどまらず、実践活動まで行う現在の形へと発展し、「働く」を地域の中で学ぶプログラムへと進化しました。対象は2年生31名、企画数6、実践活動数6となりました。
この年は、道の駅石神の丘の20周年と産業まつりの開催が重なったこともあり、産業まつりの中でプロジェクト活動の集大成をブース出店という形で発表するコラボが実現、現在まで続くきっかけとなりました。
高校の文化祭が校舎を飛び出し、町の大規模イベントと連動して実践活動を行う取り組みは、地域ならではの特徴でもあり、岩手町らしい学びの場となっています。生徒にとっては、学校の中だけでは出会えない相手に向けて、自分たちの企画を届ける経験になりました。
この年には、地産品の販売促進、移動式屋台の活用促進、レンタサイクル活用促進、廃プラスチック再資源化・油化、地域ラジオ局の開発・運営、高齢者向けスマホ教室など、多様なテーマが生まれました。地域の産業、環境、高齢者支援、情報発信といった幅広い切り口が扱われており、岩手町の課題や可能性を多面的に学ぶ機会ともなっています。

スマホ講座の実践活動
2022年度 実践プロジェクト一覧
[1]地産品の販売促進
連携機関:株式会社岩手町ふるさと振興公社(道の駅 石神の丘)
[2]移動式屋台の活用促進
連携機関:キャベツマンマルシェ、家具工房T Factory
[3]レンタサイクル活用促進
連携機関:シナネンモビリティPLUS株式会社、セヨシサイクル
[4]廃プラスチック再資源化、油化
連携機関:丸紅株式会社、株式会社宮崎商店(岩手町サービスステーション)、株式会社グローバルアライアンスパートナー
[5]地域ラジオ局開発・運営
連携機関:株式会社IBC岩手放送、株式会社クレバーラクーン、有限会社システムナレッジ
[6]高齢者向けスマホ教室
連携機関:中央公民館
2021・2022年の取り組みの詳細は、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
「『働く』ってどういうこと? まちで学ぶ未来の歩き方」
https://iwatetown-sdgs.jp/article/deepen/hataraku/
2023年 町内の企業・団体との連携が本格化
2023年になると、プロジェクト活動を通して岩手町への理解をさらに深めるため、町内企業や地域人材との連携がより本格化しました。産業まつりと沼宮内高校文化祭の合同開催も引き続き実施され、森のアリーナで実践活動が行われました。対象は2年生30名、企画数4、実践活動数4です。
実践活動当日の様子などは下記の「沼高note」記事からご覧いただけます。
この年に見えてくるのは、生徒たちの活動が「学校の課題」ではなく、「地域とともにつくるプロジェクト」へと深まっていったことです。ドーナツのおふるまい、岩手町PRカレンダーやブルーベリー染めTシャツ・ハンカチの制作販売、お菓子を景品とした金魚すくい体験、ドローン飛行体験など、地域資源や地域の人材と結びついた企画が展開されました。町のイベントの中で高校生の活動が見えるようになることで、地域の側にも「高校生と一緒に何かできる」という意識が育っていったことが感じられます。
2023年度 実践プロジェクト一覧
[1]井戸―なつ(ドーナツのおふるまい)
連携機関:いわてまち女性の会、商工会青年部
[2]岩手町野郎(岩手町PRカレンダー/町産ブルーベリー染めTシャツおよびハンカチの制作・販売)
連携機関:岩手町地域おこし協力隊老松氏、有限会社久保良商店、有限会社システムナレッジ
[3]駄菓子屋(お菓子を景品とした金魚すくい体験提供)
連携機関:岩手町地域おこし協力隊上村氏
[4]ドローン班(ドローンの飛行体験提供)
連携機関:有限会社久保良商店
【沼高】沼高祭×岩手町産業まつり~報告号②~
https://nkn-hs.note.jp/n/n9b214234c3fe?magazine_key=m1128c2356e8e
【沼高】沼高祭×岩手町産業まつり~報告号③~
https://nkn-hs.note.jp/n/n464b2cef023f?magazine_key=m1128c2356e8e
2024年 地域おこし協力隊とともに企画を磨く
2024年には、新たな試みとして、岩手町で活躍する9名の地域おこし協力隊をはじめとした地域の方々が毎回の授業に入り、チーム内の協議に加わる形が取り入れられました。生徒たちは、地域で実践を重ねている大人たちの知見に直接ふれながら、企画をより具体的に磨き上げていきました。対象は2年生30名、企画数6、実践活動数6です。
この年のテーマには、防災を意識したドラム缶ピザ、チェキフォトブース、町PRリール動画、沼宮内伝説をマインクラフト上に再現する体験、健康に関する調査とスポーツ体験、クマとの共生を考えるボードゲーム体験などがありました。食、防災、観光、文化、健康、環境といった多様なテーマを扱いながら、地域課題を自分たちなりに翻訳し、来場者に伝わる形へと落とし込んでいることがわかります。
地域おこし協力隊や地域人材が伴走することで、高校生のアイデアが単なる思いつきで終わらず、実際の社会との接点を持った企画へと育っていく。この構造は、岩手町ならではの共創のかたちといえそうです。

沼宮内伝説について地域の方々から学ぶ生徒
2024年度 実践プロジェクト一覧
[1]バケットリスト(防災を意識したドラム缶ピザの調理・販売)
連携機関:地域おこし協力隊伊原氏、笹渡氏、くずまき高原牧場
[2]Picture Akiko(チェキフォトブース体験提供)
連携機関:STUDIO PEOPLE、岩手町移住コーディネーター小林氏
[3]モトキ隊(町PRリール動画の撮影・編集・上映)
連携機関:岩手町移住コーディネーター大重氏
[4]沼宮内伝説(沼宮内伝説をゲーム「マインクラフト」上に再現、体験提供)
連携機関:地域おこし協力隊小田氏、沼宮内公民館畠山氏、おはなし☆きらきら
[5]スポーツネクサス(町内の健康に関する状況調査と分析およびスポーツ体験提供)
連携機関:地域おこし協力隊毛利氏
[6]ぶろっきんぐもんすたーず(クマとの共生を考えるボードゲーム体験提供)
連携機関:盛岡市動物公園ZOOMO、地域おこし協力隊上村氏
【沼高】沼高祭1日目
https://nkn-hs.note.jp/n/na5341686dc26?magazine_key=m1128c2356e8e
【沼高】沼高祭2日目
https://nkn-hs.note.jp/n/nd616bacd4a97?magazine_key=m1128c2356e8e
2025年 自ら企画を立て、チームで形にする流れが定着
2025年には、約半年間でプロジェクトの立ち上げから企画の協議、準備、実践活動まで行うプログラムが確立されました。毎年、1年生は先輩である2年生の校内発表や実践活動を見てきているので、「次は自分たちの番だ」と、このプログラムに臨む雰囲気が形成されてきたことも本プログラムの成果の一つです。対象は2年生30名、企画数4、実践活動数4でした。
この年には、町内産食材を使ったラーメンの調理・販売、推し活グッズの企画制作やMV企画、ニュースポーツ体験、沼宮内高校校舎をマインクラフト上に再現する体験などが行われました。年度を追うごとに、高校生たちが地域資源を柔軟に捉え、来場者が楽しみながら関われる企画に落とし込む力が育ってきていることが伝わります。
2025年度 実践プロジェクト一覧
[1]HATANAKA家(町内産食材使用のラーメンの調理・販売)
連携機関:どんぐり山熊谷氏、沼宮内高校同窓会、株式会社粉夢、いわてミート工房
[2]タコさんウインナー(推し活グッズの企画・制作・販売/MV企画および出演)
連携機関:地域おこし協力隊上村氏、けっぱって東北
[3]パキパキ・ニュースポーツ(ニュースポーツ体験提供)
連携機関:一方井公民館
[4]パキパキ・マイクラ(沼宮内高校校舎をゲーム「マインクラフト」上に再現、体験提供)
【沼高】沼高祭Archive2025 1017-19
https://nkn-hs.note.jp/n/n4ef5aee23e20?magazine_key=m1128c2356e8e
5年間の継続で見えてきた、生徒と地域の変化
このプログラムでは、毎年授業の最後に振り返りアンケートが行われています。そこでは、「自分の意見を言えるようになった」「お互いの気持ちを知ることができた」といった声が多く見られ、自分の考えを伝え、相手の考えを聞くコミュニケーション能力が身についたと感じる生徒が多いことがわかります。学校の中だけではなく、多くの事業者や地域の人たちと関わるからこそ得られる学びが、確かに育ってきたことがうかがえます。
変化は生徒だけにとどまりません。町のイベントと連動した実践活動によって、多くの住民が沼宮内高校生の活動を知る機会が増えました。「ブルーベリー染めのTシャツを地域サークル活動のユニホームにしたい」「またあのラーメンを食べたい」「LINEスタンプの制作を高校生にお願いしたい」といった声が寄せられるようになっていることからも、高校生の活動が地域の中で実感を持って受け止められていることがわかります。沼宮内高校が「地域に開かれた高校」として着実に歩みが進んできたことが、こうした反応にも表れています。
5年間の継続により、さらなる好循環も生まれています。
例えば、本プログラムでの取り組みを振り返ってまとめ、大学入試に活かし、合格につなげた生徒も出てきました。また、生徒と本プログラム関係者が町の中で自然に挨拶を交わす関係も生まれ、地域みらい留学の卒業生が実践活動に足を運び、後輩と交流する姿も見られるようになっています。こうした変化は、教育の成果が数字だけでは測れないことを教えてくれます。
岩手町には、高校生が地域の中で社会と出会える学びがある
このプログラムの価値は、高校生が企画力や発表力を身につけることだけではありません。学校を飛び出して岩手町のことを知り、地域の大人と直接コミュニケーションを取り、試行錯誤しながら人前で自分たちの企画を実践する。その経験が、将来どこで暮らし、どんな仕事をすることになっても、自分の中に残る学びになっていくことにあります。
移住を考えるご家庭にとっては、子どもが高校生になったとき、単に学校に通うだけでなく地域の中で人と出会い、挑戦し、社会との接点を持ちながら育っていけることは大きな魅力です。そして、この取り組みは、地域全体で次の世代を育てていくということにもつながっています。
SDGs未来都市がめざす持続可能なまちづくりは、制度や施策だけで進むものではありません。地域の課題を自分ごととして捉え、対話し、試し、形にしていく若い世代が育っていくこと。その積み重ねこそが、町の未来を支える力になります。岩手町には、その力を育てる学びの場が、学校と地域のあいだにしっかりと根づいています。











