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進化するケニアの農業モデルとSDGs

多くの人が食料に飢えている真実

すべての人が食べるのに十分な食料が生産されている一方で、8億1100万人がいまだに毎晩空腹を抱えたまま眠りについているという真実をご存知でしょうか?現在、地球上には約77億もの人々が生活をしていますが、途上国を中心に8億人以上(約10人に1人)が十分な量の食べ物を口にできず、2020年には55ヶ国1億5500万人が急性食料不良に直面しました。
2019年7月29日は「アース・オーバーシュート・デー」といわれ、世界の人々の消費量がその年の1年間に地球環境が生産できる自然資源の量を上回った日です。つまりこの日から自然資源の「使い過ぎ」の日々が始まりました。現在、人間が消費している自然資源の量は、世界平均で地球1.7個分に相当しています。日本の生活レベルでは地球2.8個分です。
世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されてるといわれています。日本でも1年間に約612万トン(2017年度推計値)もの食料が捨てられており、これは東京ドーム5杯分とほぼ同じ量。日本人1人当たり、お茶碗1杯分のごはんの量が毎日捨てられている計算になります。
このような現実がある中で、SDGsの大きな達成目標である「飢餓をゼロに」するために、ビジネスを通して立ち向かっている組織と世界の事例があります。そしてその事例を知ることで、実は自分たちの生活も全くかけ離れたものではないことに気づくことになるでしょう。

出典/https://gooddo.jp/magazine/hunger/6246/

ケニアの歴史と農業

ケニアはアフリカ大陸の東に位置し、南東部はインド洋に面しています。国土は日本の1.5倍ほどの広さで、大部分は標高1,100~1,800mの高地です。現在ケニア全土では、農村部に住む子どもたちの26%は発育阻害の状況にあり、命を守るための特別なケアを必要としています。
ケニアは比較的工業化が進んでいるものの、コーヒー、茶、園芸作物などの農産物生産を中心とする農業国です。ケニアには植民地であった歴史が長く存在します。1498年にポルトガル人がやってきたのをきっかけにヨーロッパによる支配が少しずつ始まり、1920年に正式に英国の植民地として宣言されました。
現在も主力な産業は農業ですが、その実態はプランテーション農業の歴史が根強く残っており、小規模農家が各地に点在し、サプライチェーンもまだまだ整っていないため、低価格でブローカーに販売してしまうケースが多く見られます。
ケニアの農業の大きな課題は非常に小規模農業で平均2haしかありません。これは日本、私たち岩手町のような中山間地域で農業を営む事業者が多い自治体も同じ課題を抱えています。

出典/http://www.kenyarep-jp.com/

 

国連WFPとSDGs

そんな中でケニアの「飢餓をゼロに」するために活動している組織があります。WFP 国連世界食糧計画(国連WFP)です。
飢餓のない世界を目指して活動する国連の人道支援機関で、紛争や武力衝突に加え、干ばつ、洪水、地震、ハリーケーンや農作物被害などの自然災害の緊急事態が発生した際には、いち早く必要とされる場所に食料支援を届ける活動を1億人を超える人に行っています。
まさにSDGsアジェンダ2番目の「飢餓をゼロに」という目標達成を優先課題に活動している団体です。緊急事態が過ぎ去った後には、飢餓を終わらせるために、食料安全保障を実現し、栄養状態を改善するとともに、持続可能な農業を促進するなどの開発支援も行っています。

出典/https://ja.wfp.org/

今回、WFPで日本人職員として働く田島大基さんに現地のリアルなお話を直接伺うことができました。
田島さんはJPOとして初めて派遣されたケニアで、東アフリカ地域を結ぶパイプラインを担当されています。パイプラインとは、国連WFPが導入した支援のバックボーンを担う綿密に作成された表計算ツールを指し、これにより援助の将来的な必要額や不足額などが予測可能となり、また効果的な支援を行うための食料調達スピードが劇的に改善可能となります。ケニアの予算担当官として非常に重要なお仕事をされています。

出典/https://ja.news.wfp.org/20-21-268ea2ebbecd

田島さんからお話を伺った中でも特にご紹介したい、持続可能な農業を促進するWFPの活動があります。

ビジネスで解決する農業の課題

WFPが行っている持続可能な農業の促進活動の中に「Farm to Market Alliance(FtMA)」という活動があります。農業に関係するセクター全体に利益をもたらすコンソーシアムで、サプライチェーンを整え、農家の市場アクセスを向上させることで、小規模農業でも収益性のあるビジネスを行える環境を構築しています。
現在、ケニア・ルワンダ・タンザニア・ザンビアで展開されています。
その活動を行う上で肝となるのが「Farmer Service Centers(FSCs)」です。ワンストップ型のキオスク(小さな建造物の象徴)を各地でネットワーキングしており、現在ケニアでは400を超えるFSCsがあり、7万人を越える農家にサービスを提供しています。農家はここに行けば農業に必要な物資やサービスは何でもそろうので、今まで限られた環境条件でブローカーに低い価格で売ることしか出来なかったのが、自身で必要なものを揃え、事業が行うことが出来るようになってきたのです。FSCsでは小規模農家と様々なサービス提供者やパートナーを繋いでおり、例えば、農作物のバイヤー、保険会社、金融機関、物流会社、肥料会社などをコーディネートしています。
FSCsはコーディネートする際にコミッションをとる形で一つのビジネスとして運営しており、個人事業規模の事業者にキオスクの運営を委託することで、新たな雇用も生み出しています。ケニアのFSCsでは3割以上が女性の事業者で、女性の活躍も多いそうです。
WFPはKuzaというパートナーを通じて、FSCsで働く事業者のビジネススキル向上のトレーニングを提供されています。

出典/Farm to Market Alliance – Farm to Market Alliance (ftma.org)

他にもIT技術の発達と共にベンチャー企業が多く立ち上がり、ケニアでは多くの社会課題の解決に繋がっています。

  • Twiga Foods 

農家と小売店をつなぐ流通プラットフォームを構築した会社で、ブローカーの介入でにより農家の収入が低くなってしまう課題を解決しています。小売店のオーナーらはTwigaが開発したモバイルアプリを通じて様々な農作物を発注できるほか、農家側はTwigaより24時間以内に支払いが受け取れるメリットがあります。

  • Hello Tractor 

高価なトラクターを購入できない農家が多い中で農業の機械化はなかなか進んでいない状況でしたが、トラクターを提供してくれる方と利用したい農家をアプリでマッチングするビジネスが立ち上がりました。「農家にとってのUber」とも言われるHello Tractorは、アプリを通じてトラクターの利用経路、消費燃料、メンテナンスの必要性など様々な情報を提供しています。

ケニアの農業にもリープフロッグ現象が起きています!食料システムを変革することで、飢餓ゼロに少しでも近づけるのです。

日本の農業モデルを考える

岩手町の主幹産業は農業です。岩手町の農業従事者も個人事業として小規模で行っている方が多いですが、小規模な農地ではなかなか収益性が低い現状があります。「半農半X」という言葉も流行し、社会情勢も相まって起業がしやすい社会になってきましたが、まだまだ事業としてやっていけるような一般的なモデルは出来上がっていません。
コメを主力な農産物として、農業協同組合が農業従事者を支えてきた歴史がありますが、大きく食文化が変わり、社会の需要と供給も変革する中で、農業従事者を伴走して支える新しい仕組みが必要とされていることも事実です。
ケニアではWFPの支援の元、新しい仕組みやシステムが生まれ、テクノロジーを活用したベンチャー企業が大いに力を発揮し、「飢餓をゼロに」近づけるビジネスが着々と生まれています。
現在日本ではケニアに比べ飢餓人口は圧倒的に少ない恵まれた環境で暮らせていますが、ほぼ輸入の食料に頼り、近年異常気象や自然災害が相次ぐ中では、持続可能な農業モデルが未来の日本も救うことは間違いないでしょう。

SDGs未来都市に選定された岩手町では農業の視点でも多くのプロジェクトが動き出しています。農業のリビングラボも2021年8月にキックオフされました。

田島さんからお話を伺う中で強く心に残った言葉があります。
「今でも十分な食料が手に入ってない人がたくさんいますが、少し先の未来を予測すると圧倒的に食料が足りません。飢餓人口はまだまだ増えます。飢餓をなくすためにやることは無限にあります。」
飢餓をゼロにするためには、ビジネスは切っても切り離せません。ケニアの新しい農業モデルが社会課題を解決し始めているように、新しいビジネスモデルを生み出し岩手町の発展につなげたいものです。

出典/https://jp.techcrunch.com/2020/05/20/2020-05-19-kenyas-apollo-agriculture-raises-6m-series-a-led-by-anthemis/

 

【出典リスト】

https://www.wfp.org/countries/kenya

https://ja.wfp.org/zero-hunger

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html

https://ja.wfp.org/corporate-strategy

https://ja.wfp.org/news/guolianwfp-kenianonanminhenoshenkenashiliaobuzuwojinggao

https://ja.news.wfp.org/20-21-268ea2ebbecd

https://www.unic.or.jp/info/un_agencies_japan/wfp/

https://www.unicef.or.jp/news/2017/0200.html

https://twiga.com/

https://hellotractor.com/

https://ftma.org/

http://www.kenyarep-jp.com/kenya/history_j.html

https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4033.html

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