岩手町の基幹産業である農業。冷涼な気候を活かした高原野菜を筆頭に町の産業として発展してきました。また森林も多く、町の75%は森林や原野が広がっています。岩手町に訪れると、一面広がっている畑と大草原の自然豊かな景色にはいつも吸い込まれてしまいそうです。
山地の多い日本では中山間地域が総土地面積の約7割を占めており、この中山間地域における農業は全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割を占めるなど、我が国農業の中で重要な位置を占めています。そのため日本の農業は均一な大規模圃場にすることが難しく、大型機械を活用した農業スタイルはなかなか適していないケースも多いのです。一方、非常に豊かな自然に恵まれているため、地域に根差した多種多様な農産物が日本の食文化を築き上げてきました。
出典/岩手町
そんな日本の農業からは想像できない、全く違ったスタイルの農業を国の主要産業として行っている国があります。そしてその技術がSDGsにも大きく貢献している事例があります。2030年のあるべき姿としてどのような未来を描くか、世界の状況を見てみましょう。
オランダの農業
オランダの国土面積は、約4万1,000平方kmで、日本に置き換えると九州とほぼ同じ広さです。農地面積も約450万ヘクタールの日本に比べて、オランダの農地面積は約184万ヘクタールと規模は小さいうえに、痩せた土地も多く、冬の日照時間が少ないなど地理的な要素もからんで、農業に適した国土とは必ずしも言えません。そんな条件の中、オランダは農産物の輸出額は世界第二位を保持しています。単位面積当たりの農業の付加価値は金額ベースで欧州の平均の5倍。オランダの純輸出の65%を農業関連が稼ぎ出し、労働者の10%が農業関連で働いています。これほどの事業規模を持つオランダの農業はどのような仕組みがあるのでしょうか。
出典/https://www.tel.co.jp/museum/magazine/natural_energy/161031_report01_01/
フードバレーが果たす役割
オランダの農業を支える背景にあるのが、フードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点です。オランダの首都アムステルダムから南東方向約 80 km に位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名 で、米国カリフォルニア州北部のシリコンバレーにならってフードバレーと呼ばれるようになりました。このフードバレー地域には、約15000人の科学者、1400を超える食品関連企業、70の科学企業、そして20の研究所が集まっています。
出典/https://www.gelderlander.nl/de-vallei/alle-banen-in-food-valley-op-een-site~af4e1434/
フードバレー運動が立ち上がったのは1990年の始め。とくに重要な役割を果たしたのは,ワーヘニンゲン市を中心とする周辺の4つの自治体と、その自治体があるヘルダーラント州です。
同市には 1991 年に建設されたアグロ・ビジネスパーク(現在の Business & Science Park Wageningen)に中小及びベンチャー型の農業食品関連企業が立地していました。知識経済に基づく地域産業クラスターの形成を地域成長戦略に位置づけたヘルダーラント州が、州開発公社を通じて 2001~02 年に構想した事業でワーヘニンゲン及び周辺地域に集積していた農業食品部門に着目したのがフードバレー誕生の直接的な契機となっています。2004年には、オランダ政府や地元の自治体、食品企業などが資金を拠出し「フードバレー財団」を設立、異業種間や産学官の連携を戦略的に強化する体制を整え、企業の利益に直結するビジネス指向の研究への傾斜を強めました。かつては政府が農業の知識やイノベーションのシステムに深く関与していましたが、今では関与は薄まり、より明確に民間部門(産業界)主導による産業政策・科学技術政策の推進が謳われ、よりビジネスに直結する開発がなされています。
出典/https://www.kubota.co.jp/globalindex/precision-farming/01.html
ワーヘニンゲン大学の存在
ワーヘニンゲン大学のキャンパス内には多くの大企業の研究所があります。大学、研究機関、食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細やかなサービスに対するニーズが発生するため、その解決を提案するベンチャー企業が生まれています。そしてそのベンチャー企業と学生は非常に近い距離にいます。学生がベンチャー企業を立ち上げる際に支援する仕組みやスタッフもキャンパス内に整備され、学生はこれらのリソースを利用して、ビジネスモデルを練り上げたりビジネスパートナーを見つけたりすることができます。ワーヘニンゲン大学がこの産官学連携のプラットフォームであり、大きな役割をはたしています。
持続可能な食料生産のために
出典/https://earthjournal.jp/technology/33135/
国連サミットで採択された、2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)。SDGsのアジェンダにも大きく掲げられています。
ゴール1:「貧困をなくそう」
ゴール2:「飢餓をゼロに」
地球の人口は、2050年までに100億人に達すると予測されています。それまでに食料生産を飛躍的に増やし、同時に水や化石燃料の消費を切り詰めないと10億人以上が飢餓に直面するおそれがあるといわれています。飢餓とどう闘うのかは、21世紀の最も切迫した課題といえますが、この問題に、最新テクノロジーで解決策を見いだせると考えているのが、フード・バレーの起業家たちでもあります。
フードバレーで開発されている技術はSDGsの達成に向けて、世界も大注目しています。
培養肉、土を使わないバナナ栽培、ヨーロッパ最大の規模を誇る都市型農業、世界初となる水上酪農場「フローティングファーム」、食品ロスをエサとする世界初のカーボンニュートラルな鶏卵の生産など想像も出来ないような技術が生まれています。
これからも世界は人口増が続くと予想され、フードビジネスは飽和しない成長産業だと言われています。そして持続可能な農業はSDGsの多くのアジェンダに通じる、基盤の産業であります。そしてアカデミックな視点やビジネスの視点からの情報が一元化できる場所が必要であるのは間違いない中で、産官学連携は、イノベーションを効率的に創出し広く普及させる仕組みで、SDGs達成のためにも非常に重要です。
オランダと日本は全く環境条件は異なりますが、国土の環境条件にならった方法で日本の農業の生産力はまだまだ伸びしろがあることは確実です。近年は日本でも北海道、新潟市、熊本県においてオランダを参考とし、ニューフードバレー構想に取り組む動きも始まっています。産官学連携して行われる産業振興が、生産現場との連携により持続可能な農業の形態が各地で整えられ、SDGs達成に貢献することは間違いないでしょう。
【出典リスト】
https://www.tel.co.jp/museum/magazine/natural_energy/161031_report01_01/04.html
https://smartagri-jp.com/smartagri/34
https://www.kaku-ichi.co.jp/media/tips/technology/netherlands-distribution
http://www.md.tsukuba.ac.jp/gradmed/seminar/pdf/140523_00.pdf
https://www.cfiec.jp/jp-m/2018/0284-1090/
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1610sym.pdf
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/magazine/17/082100013/082200003/?rss