SDGs未来都市対談企画! 宮城県石巻市 斎藤市長 × 岩手県岩手町 佐々木町長

コロナ禍の中ではありますが、感染症対策をしっかり行いながら、佐々木町長が宮城県石巻市をご訪問させていただく形で石巻市の齋藤市長との対談が実現しました!

 

石巻市は、岩手町と同じく、2020年に内閣府よりSDGs未来都市に選定を受けた自治体の一つです。石巻市といえば、日本人には忘れられない東日本大震災で最も大きな被害を受けた自治体の一つでもあります。震災からの復興を掲げて進めるSDGs未来都市とはどのような都市なのでしょうか?

 

そして、石巻市と岩手町とは日本で5番目の長さを誇る北上川の源泉と最河口でつながる自治体でもあります。北上川でつながるそれぞれの自治体が目指しているSDGsの取り組みとはどのようなものでしょうか? 取り組みを進めていく中での課題や将来の展望とは・・・。

石巻市長 齋藤 正美(1期目)

2021年4月~現在。1954年12月19日、石巻市蛇田生まれ。1984年、石巻市議会議員に初当選。1987年には、宮城県議会議員に初当選し、以来4期16年在任した。その後、衆議院議員選挙に3度挑戦するも惜敗。東日本大震災からの復興を目指し、県議会議員に戻り、ふるさとの一日も早い復興のために尽力してきた。
7期目で副議長に就任するも、その職を辞して2021年4月に石巻市長に就任。全ての世代が生きがいを持って活躍できる、持続可能なまちづくりを目指す。

岩手町長 佐々木 光司(1期目)

2018年6月〜現在。1959年8月2日、岩手町沼宮内生まれ。1983年4月 岩手町役場採用。2017年3月岩手町役場を退職し、社会起業大学でソーシャルビジネスを学ぶ。2018年6月岩手町長に就任。岩手町の先人が築き上げてきた「農業」「スポーツ」「アート」という3つの特徴的な文化的要素に着目。変化が激しい時代、そして人口減少、少子化が深刻化する中で、岩手町ならではの持続可能なまちづくりを目指す。

SDGs未来都市を目指した理由とその経緯

対談の冒頭、齋藤市長と佐々木町長より、それぞれの自治体がなぜSDGs未来都市を目指すのか、その理由についてうかがいました。

齋藤市長:

平成23年3月11日、忘れもしない東日本大震災、あれから10年が経過しました。国内観測史上最大となる激しい揺れとその後の巨大津波の被害を受けた本市としては、この10年、まず被災者の住まいの整備をはじめとした復旧、復興事業を最優先事項として着実に進めてきました。

東日本大震災によって甚大な被害を受け、とくに半島沿岸部を中心に急激な人口減少や少子化、そして高齢化が進みました。

その結果、高齢者の移動手段の確保などを含めた課題が顕著になっていると共に、住み慣れた土地を離れざるを得なかった被災者同士の新たなコミュニティに関する課題など、震災に起因した課題も抱えることとなりました。

震災からの復興とその後のさらなる飛躍の実現を果たすためには、これらの課題解決にあたって中長期を見通した持続可能なまちづくりに取り組むことが重要であると考えました。

経済、社会、環境の三側面を統合的に取り組むことで持続可能なまちづくりを目指すというSDGsの考え方はまさに石巻市の復興と地方創生の実現に資するものです。

 

佐々木町長:

私の中で、今までの(行政の)手法や施策では持続可能な町にはならないのではないかということを危惧していて、そのためには、まず足場を固める必要があると思いました。

岩手町は、キャベツに象徴される農業の町です。東京オリンピック2020にフィールドホッケーの競技でオリンピアンを3人輩出するなどスポーツの町、そして、30年ほど官民一体となって国際石彫シンポジウムを開催してきた歴史のあるアートの町でもあります。

この3つに磨きをかけて足場を固め、しっかり稼げる町となり、地域経済を循環させていくような持続可能な町を目指すべきじゃないかなと思い、SDGs未来都市を目指すこととしました。

モデル事業に選ばれた石巻市の先進的な取り組みとは

石巻市はSDGs未来都市の中でもモデル事業に選定を受けています。その事業の狙いと具体的な内容について齋藤市長にお話しいただきながら対談が進みました。

齋藤市長:

SDGs未来都市の中でモデル事業に選定された事業におけるテーマは「コミュニティ」、持続可能な地域社会の構築に取り組んでいく事業です。

まず、「ハイブリッドリユース事業」ということで、使われなくなったハイブリッド自動車を域内外から回収して、市内の自動車整備事業者等によって電気自動車などとしてリユースします。豊田通商や石巻専修大学などとの連携によって、市内事業者向けに技術指導研修会を開催することで技術習得を進め、新産業の創出と地域経済の活性化につなげることを目指しています。

そして、モデル事業として選定を受けた「グリーンスローモビリティ活用事業」に取り組んでいます。これはハイブリッドリユース事業によって生産された電気自動車を活用して、グリーンスローモビリティ、つまり時速20キロ未満で走る4人乗り以上の電気自動車によるコミュニティカーシェアリングを行うことで、高齢者の外出機会の創出などによるコミュニティの活性化を図るという事業です。

また、電動カートの充電も太陽光発電によって行えるよう整備を図っていて、100%自然エネルギーによるグリーンスローモビリティを実現しました。

出典:河北新報 ONLINE NEWS お出かけは電動カートで 石巻で高齢者の「足」確保(2021年3月29日)

その他には、「コミュニケーションロボットの活用」も進めています。スマートフォンなどの代わりに、会話形式で相手の状況に応じた支援が可能なコミュニケーションロボットを活用することで、高齢者のデジタルデバイドの解消を図りながら、地域行事への参加を促進する仕組みを構築し、心のケア、孤立防止につなげていきます。

この事業では、市立高校の学生がロボットの組み立てをしています。これはIT人材の育成につながるものです。

もう一つ重要な点として、市民へのSDGs認知度向上を図ることを積極的に行っています。

市報やホームページの他、マンガ冊子、アニメ動画などによるSDGsの普及啓発にも取り組んでいます。

マンガでわかるSDGsを学ぶ本、これは全世帯へ配布しました。また、石巻 SDGsを学ぶアニメ動画として、1分間の動画を7本作成し、You Tubeで配信しています。

また、今年の3月に開催した石巻市SDGsオンラインシンポジウムは、動画の再生回数が1400回を超えました。さらに、いしのまきSDGsパートナー制度というものも運用を開始しました。

これら様々な事業に取り組んでいるという姿そのものが、SDGsの活用につながると思っています。

出典:自治体SDGsモデル事業の概要

佐々木町長:

このモデル事業となっている「グリーンスローモビリティ事業」は、いくつもの仕組みがつながっていて、2歩も3歩も前に進んでいる先駆的な取り組みですね。これからも注目させていただきたいと思いますし、是非、実際の現場を見学させていただいたり、実際に関わっている方々にお話を伺いたいです。

岩手町独自の取り組みとしては、トリプルボトムラインという3つの要素を打ち出し、それを理念に掲げながら進めています。

まず1つは、シビックプライドです。町、地域に誇りや愛着を持って、外から来る方、関係される方にもそれが伝わるような取り組みをベースにしていきたい。

2つ目は、若者、若い世代を中心として選ばれる町にしたいということで、町のブランディングを改めて打ち出しました。

そして3つ目として、SDGsによる姉妹都市提携を進めていきます。

これは国内外のSDGsに積極的、先駆的な取り組みをしている自治体にご相談して関係を築き、様々な取り組みを勉強させていただきながら、岩手町のSDGsの取り組みもさらにボトムアップしたいと考えています。

シビックプライド、ブランディング、そして姉妹都市提携をトリプルボトムラインとして掲げ、計画を進めています。

このトリプルボトムラインのベースとしてリビングラボと人材育成。これが岩手町のSDGsの未来都市の取り組みでございます。

 

リビングラボとは、自分たちの手で、町をもう1回作り上げていくというような、オープンイノベーションのまちづくりの手法です。

昨年度、農業、健幸・スポーツ、森林・ものづくり、そして地域エネルギーの4つテーマのリビングラボを立ち上げました。

地域人材育成にも非常に力を注いでおります。

起業塾の開催、みんなの意見を否定しないで、みんなで高め合って認め合っていくという対話の手法の導入、そして、SDGsの考えに基づいた未来の教室という授業を町内唯一の高校、沼宮内高校にて進めているところでございます。

農業 × SDGs 岩手町リビングラボ(いわて町ラボ)「リビングラボとは」

市民が主体的に取り組んでいくまちづくりと課題

行政が単に旗振り役をするだけでなく、そこに住む住民のみなさんとどのように連携して事業を進めているのかについてうかがいました。

齋藤市長:

岩手町民をはじめ町に関わる全ての人が主体的に喜びと誇りを高め合うまちづくりというのは一番の基本です。一方で、それを展開するのは一朝一夕にはできません。ですから、目標を定めながら、少しずつ進んでいくというのが大事かなと思っています。

それから、経済、社会、環境の三側面の取り組みに関する技術ノウハウを学び合う情報交換も大切です。また、交流にとどまらず、相互のSDGsを促進するためには、気候変動リスクに対応した生産連携協定や持続可能性の高い生産方式に基づく付加価値の高い新商品の開発、相互の市場へのアクセスなどの戦略的な意図を持った姉妹都市提携を目指すことはSDGs にふさわしいですし、未来に向けた良い取り組みだと思います。

新型コロナウイルスの影響により、グリーンスローモビリティの車両、それから、太陽光、非接触給電ステーションの整備に遅れが生じています。

現在も確実な見通しは立ってない状況ですが、決して焦ることなく、今も、グリーンスローモビリティの実用化に向けて一歩ずつ歩んでいます。

そして、グリーンスローモビリティの先駆的な実用方法を石巻市が実現させれば、これを全国に発信することによって、(他の自治体の)課題解決の一助になればと考えています。

 

佐々木町長:

それは素晴らしいですね。岩手町の課題としては、「SDGs」という言葉が、まだ町民に深く、広く浸透していないということが課題です。SDGsそのものに対する考え方を普及啓発していくということが要になるのではないかと思います。

 

齋藤市長:

石巻市では、市民のSDGsの認知度は、だいぶ高くなってきていると思います。

SDGsの認知調査の結果では、令和2年度に高校生が26.6%だったのが、35.1ポイント増の61.7%となりました。大学は、33.9%から37.7ポイント増の71.6%になっています。これは大きいかなと思います。

令和4年度は市民のSDGs認知度を50%に高めることを目標に啓蒙活動していこうと考えています。

 

佐々木町長:

そうですね、町民市民に、認知度がこれくらい上がってますよ、と分かりやすく示すことは大事ですね。

石巻市では、経済、社会、環境の三側面の取り組みに関する技術ノウハウを学び合う

首長が描く2030年の自治体のイメージとは

住民と目指していく2030年のそれぞれの自治体のイメージについてうかがいました。

齋藤市長:

一言で言えば、「最大の被災地から 未来都市 石巻」の実現を目指すということです。その一言に尽きると思います。

そのために、人づくり、地域経済の立て直し、活性化の実現、コミュニティを核とした持続可能な地域社会を、いかに作っていくか。災害に強いまちづくりをどう実現していくか。低炭素社会、循環型社会の実現を果たしていくということ、そして、2030年に石巻市の誰もがSDGs未来都市として誇れるまち、実践したまちとして、全国から認められるように、市民一丸となって、その方向に向けて努力していきたいと思っています。

 

佐々木町長:

町民の町に対する誇りが持続可能性にとって一番大事だと思います。2030年の町のあるべき姿に向けて、町民が主体となって、町内外の様々な人と関わりを持ちながら、岩手町で暮らすこと、そして岩手町に関わることが誇りとなるような取り組みをしていきたい。新しいプライドを生み出すような、そういう町を目指したいと思います。

岩手町が目指す2030年のあるべき姿

北上川流域自治体によるSDGsネットワーク構築へ

最後にSDGs未来都市を目指す自治体同士が連携することでどのような未来が築けるのか、その可能性やネットワークの在り方についてお話しをうかがいました。

SDGs未来都市について熱く語る齋藤市長

齋藤市長:

弓弭の泉(※)には、30年ほど前に訪ねて、感激したのを今でも覚えています。弓弭の泉は勝利の泉、そしてまた奇跡の泉であり、すごく縁起の良い泉。そこからの一滴の水滴が大河となり、河口から海洋に出て行くわけですが、その源流である岩手町と、1番最下流、河口の石巻市のご縁というのは、非常にありがたいなと思います。

 

佐々木町長:

これをご縁に、北上川流域自治体同士のSDGsネットワークを打ち出していければいいなと思っています。
北上川を軸にした、さまざまなSDGsの連携、相互に交流しながら、ぜひ盛んにしていきたいなと考えています。

この2つの自治体だけということだけではなく、SDGs未来都市はもちろん、様々な自治体の皆さまにも関わっていただきながら、国際的な視野を持って世界的にも発信していけるような取り組みにつながっていければと考えています。そのためには共通の理念をお互いに持って進むということが重要じゃないかなと思っています。ぜひ、ご協力をお願い申し上げます。

 

齋藤市長:

おっしゃるように、北上川流域の治水を考える上で、北上川に関係する全自治体で北上川を一つの核とした東北全体の地域連携を図っていくことは大切です。その中で特に我々はSDGsの共通の連携をして輪を広げようということの呼びかけ人になって、東北は一つ、東北の全体の高揚を図っていくということで、今までやってこなかった東北全体の市・町の連携が構築されることは、SDGsもさることながら、未来に向かって、より意識や絆が深まるのではないでしょうか。

大いにがんばらせていただきたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

 

※弓弭の泉
東北最大の一級河川である北上川の源泉。
JR/IGRいわて沼宮内駅から車で約15分、旧奥州街道沿いの御堂観音の境内にある。

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