2022年5月、千葉県安房郡鋸南町の農地でエビの養殖を行う株式会社Seaside Consultingの平野雄晟氏、平野彩氏を取材しました。
鋸南町は、千葉県の南部に位置し、なだらかな砂浜が拡がる海岸部は南房総国定公園に指定されている風光明媚な町です。人口は約7,000人で過疎化が進む自治体の一つでもあります。
歴史的には1180年に石橋山の戦いに敗れた源頼朝が舟でこの地に落ち延び再起を図った起死回生の地として有名です。
そのような鋸南町に移住してきた平野ご夫婦ですが、エビの養殖を始めるにあたって数十の自治体に掛け合う中で協力的だった鋸南町を最終的に選んだとのこと。
エビの養殖は耕作放棄地を活用、農業用ハウスでエビ(バナメイエビ)の養殖を行っています。
基本的に排水をせず、薬剤も使わないといった環境負荷の少ないSDGs的な方法で養殖に取り組んでおり、昨年8月にタイから稚エビを輸入し、11月から販売を開始しています。
なぜ陸でエビなのか
日本の食料自給率は約37%と諸外国の中でも低水準です。
その中でも、日本人がよく口にするエビの食料自給率は10%程度とほとんどを輸入に頼っており、輸入がいったん止まれば私たちはエビを食べることはできなくなるという食材の一つです。
そして、東南アジアの人口増加に伴う消費量の増加や環境負荷の高いエビの養殖によりエビ自体の数が減るなどにより、実際に輸入しにくくなっている現状もあります。特にマングローブ林の破壊などは大きな問題となっています。
平野氏はこのような実情に危機感を持ち、エビの中でも流通量が多い「バナメイエビ」に目を向けました。
陸での養殖を始めた理由の一つに「耕作放棄地の活用」があります。
耕作放棄地とは…
以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する意思のない土地のこと
日本の農地は国土の約13%、山林を除くと約40%程度存在することになりますが耕作放棄地のように活用されていないものも見られます。
今回の養殖場では20年以上放置されていた耕作放棄地を整備し、ハウスを設置しました。
また、ほとんど排水を行わないことから海や沿岸での養殖よりも環境負荷が少ないといったメリットもあります。
これら以外にも…
井戸水を利用した水温調整や塩分濃度の調整
廃材になっていた木質パレットを足場に活用する など
「なるべくあるものを使っている」と環境への配慮が隅々までされていました。
出荷までの長い道のり
今は出荷先から高い評価を受けるまでになった事業ですが、ここまで来るのにも様々なご苦労があったそうです。陸上でのエビの養殖など誰も経験がないため、自分たちで試行錯誤を繰り返すしかありません。
また、事業を構想した時点では農業や漁業の経験が無かったことから、国内外の養殖場の視察や情報収集などから始めたそうです。
視察から実験まで、ほとんどの過程を自ら行ってきたため「失敗できない」という想いが強くあり、共食いでの個体数の減少や病気のリスクから、3か月間ハウスに泊まり込んでエビの世話をしたこともあったそうです。
また、現在では様々な新聞紙やメディアに取り上げられるようになったものの、最初は地元紙での掲載くらいしかなかったとのこと。そのため、周知を図るべく自ら売り込みを行ったと言います。
「まずは知ってもらうこと」と今回の取材も快諾してくださいました。
今後の展開
平野氏はエビの養殖だけでなく農福連携での雇用創出にも取り組んでいます。
今後は養殖場の拡大や技術の向上によって生産性を上げていくとともに、新たな雇用の創出にも取り組んでいくそうです。
まだ出荷量が少ないことから、「世界最高のエビ」を目指しているこれらの素晴らしいエビを私たちが食べられる機会は少し先になりそうですが、その日を楽しみに待ちたいと思います。
■株式会社Seaside Consulting
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