私たちはどんな未来をつくりたい?地域のビジョンづくりとバックキャスティング

みなさんは「幸せな暮らし」「安全な地域」「平和な世界」と聞いて、具体的にどんなことを思い描くでしょうか?

 

時間やお金に余裕があって、友人や家族に囲まれていて、好きな活動や好きな仕事ができている… そしてそれを支える社会があって… 平和ってそれが世界に広がっている状態…?

 

答えはそれぞれにありつつも、ここには共通した条件を見出すことができるのではないでしょうか。この共通した条件を叶える「もの」や「サービス」が経済となったり、なかでも「命を守る必要不可欠なもの」が地域や社会の仕組みに反映されているとも言えますが、

 

現状構築されているそれらのものが、「すべての人の幸せ」「世界の調和」を実現し「未来世代にも引き継ぐことができるもの」になっているのか?で言えば、そうとは言えない現状があります。

出典/グローバル・フットプリント・ネットワーク

 

いかにわたしたちの暮らしが持続可能でないか…を理解するに国連も採用している「エコロジカル・フットプリント」の指標が役立ちます。

 

これは、現状の人類の暮らしが、どれくらい地球に負荷をかけているかを見るための指標です。これによれば、現状の人類の暮らしを支えるには「地球資源が1.7個分」必要だと報告されています。(出典/グローバル・フットプリント・ネットワーク

 

さらに、世界中の78億人が日本人と同じ暮らしをすると「地球資源が2.9個分」も必要だと試算されています…!つまり、日本の暮らしの水準が世界に広まっては「地球1個」では足りず、すでに持続不可能な状態なのが、さらに負荷がかかってしまう…ということなるわけです。

 

この持続可能でない今を解決するために「SDGs(Sustainable Development Goals)」は出されました。SDGsはまさしく「平和な世界」と言える状態と、それを阻む「現状の課題」を、 ”17個の視点” で整理したものとも言えます。

 

 

Transforming Our World 〜わたしたちの世界を変革する〜

出典/国連UN

 

エコロジカルフットプリントの指標にあるとおり、わたしたちが世界や地域の問題を知りもせず、盲目的に自分や地域の幸せ・豊かさを追及してしまうと、今後より一層世界のバランスは崩れ、結果として気候危機やその先の食糧や水などの資源不足と取り合い、紛争による世界情勢の悪化というかたちで、自分たちに返ってきてしまいます。これを起こさないようにするためにも、SDGsの視点は欠かせません。

 

SDGsに取り組もうとするときには、平和が実現した「世界ビジョン」と「日本ビジョン」そして「地域ビジョン」「個人ビジョン」と、少なくとも4つのレイヤーで考えることができます。これらのビジョンが調和するものが「理想」となり、「平和」と言えるものになるのかもしれません。

 

わたしたちはこれらのベストバランスを探りながら、「全体最適」と「個別最適」を同時にやっていくということが求められているのです。

 

世界ビジョンは「2030アジェンダ」に、日本のビジョンについては「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2020改訂版)」や「SDGsアクションプラン2021」に示されていますので、これらを踏まえて「個人ビジョン」が集約された「地域ビジョン」を描くことが必要となってきます。

 

未来を見ながら今をデザイン「バックキャスティング」

出典/アミタ

 

さらにSDGsに取り組むにあたって「バックキャスティング」という方法を使って取り組み方やアクションを見出していくことが推奨されています。やみくもに目の前の課題に取り組んで、なんだかよくわからない社会が実現されていた!ということになっては、悲しいですよね。

 

そこでこのバックキャスティングの方法では、未来の理想のビジョンをもとに、今からできることを見出していくことで、より明確に自分たちの実現したい社会に向かって取り組むことができるというわけなのです(出典/コトバンク)。

出典/Backcasting as a Tool for Sustainable Transport Policy Making: the Environmentally Sustainable Transport Study in the Netherlands に筆者和訳を追加

 

一方で、過去のデータや実績に基づき、現状で実現可能と考えられる積み上げによって、未来の目標に近づけようとするものが「フォアキャスティング」と呼ばれるものです(出典/コトバンク)。

 

フォアキャスティングは、できることからやっていくやり方なので、前提の問い直しや抜本的なシステム改革に至りづらい上に、イノベーションが起こりづらかったり、大きな成果が期待できなかったりすることから、SDGsをはじめ国際目標のプロセスにも、バックキャスティングが採用されています。

 

次の章では、このバックキャスティングに必要不可欠であり、一番最初のステップでもある「ビジョンづくり」に向けて、まずは「世界が掲げているビジョン」を見ていきます。

 

 

SDGsが目指すのは、世界のすべての人の幸せや豊かさ

出典/国連

 

SDGsに取り組む前に、まず読んでおきたい「2030アジェンダ」には、理念やSDGsを進めるにあたっての重要なポイントなどが記載されています。なかでも「5つのP」に、人類の理想とする世界がまとめられています。

 

【人間(People)】わたしたちは、あらゆる形態および側面において、貧困と飢餓に終止符を打ち、すべての人間が尊厳と平等、そして健康な環境の下に、持てる潜在能力を発揮することができることを確保していくことを決意する。

 

【地球(Planet)】わたしたちは、地球が現在および将来の世代のニーズを支えることができるように、持続可能な消費および生産、天然資源の持続可能な管理、そして気候変動に関する緊急の行動をとることを含めて、地球を破壊から守ることを決意する。

 

【繁栄(Prosperity)】わたしたちは、すべての人間が豊かで満たされた生活を享受できること、また、経済的、社会的および技術的な進歩が、自然との調和のうちに生じることを確保することを決意する。

 

【平和(Peace)】わたしたちは、恐怖および暴力から自由であり、平和的、公正かつ包摂的な社会を育んでいくことを決意する。平和なくしては持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和もあり得ない。

 

【パートナーシップ (Partnership)】わたしたちは、強化された地球規模の連帯の精神に基づき、最も貧しく、最も脆弱な人々のニーズに特に焦点をあて、すべての国、すべてのステークホルダー、すべての人の参加を得て、「持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップ」を通じて、このアジェンダを実施するために必要な手段を動員することを決意する。 (出典/国連

 

この世界や地球と書かれているなかには、もちろん日本に住むわたしたちも含まれています。

 

とはいえ大きな話で分かりづらい!という人もいるかもしれません。そこで、自分たちの理解がしやすい、しっくりくる言葉で置き換えたり、子どもたちと一緒に平和な世界を想像して、言語化してみる、言葉を分解してみることから始めてみるのもいいかもしれません。

 

「すべての人が健康」「すべての人がやりがいのあることに取り組んでいる」「すべての人に環境と調和した家がある」など、普段聞き慣れている言葉や子どもでもわかるような簡単な言葉にすることによって、より実感しやすくなるのではないでしょうか?

 

さらにこれとともに「健康って何?」「やりがいのある仕事って?」そんな問いも出てくるかもしれません。これらの前提に立ち返り、改めて幸せや豊かさの再定義をすることに取り組んでみるのもおすすめです。

 

 

日本が示す、持続可能な社会ビジョンとは?

出典/SDGsアクションプラン2021

 

世界のビジョンをなんとなくでも理解したら、次に日本がSDGsに対してどんなビジョンを持っているか、何をしようとしているのか、を見ていきましょう。

 

前述した「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2020改訂版)」や「SDGsアクションプラン2021」に加え、環境省が出している「地域循環共生圏」、経産省が出した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」なども見ていただくと良いかもしれません。

 

SDGsアクションプラン2021」で掲げられている日本のビジョンにも相当する内容は下記の8つが挙げられます。

 

1 / あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現

2 / 健康・長寿の達成

3 / 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション

4 / 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備

5 / 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会

6 / 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全

7 / 平和と安全・安心社会の実現

8 / SDGs 実施推進の体制と手段

 

さらに、日本のAIのシナリオ分析結果や、日本の現状の問題点に関してまとめたレポート「SDGs達成に向けた日本への処方箋」なども見ながら、問題理解を進めるのも良さそうです。

出典/環境省「地域循環共生圏」

 

日本の課題は周知のとおり、都心経済の肥大化によって地方が衰退し、地方の生産性が下がることで、都心の暮らしが支えられなくなるリスクや、都心に人口が集中することによって、コロナをはじめとした感染症がまん延しやすいリスクもあります。

 

日本の持続可能性に対する取り組みでは、地方創生にもある産業や雇用創出で地方を活性化させていき、都心に集中している人口を地方に向けていく流れがあります。都心の最適化と地方の活性化によって、これまでの「東京一極集中」ではなく「多拠点集中型」の日本を目指していくことを提示している研究者もいます。

 

そのような流れを意識することともに、日本が世界において足を引っ張っている問題も見ながら、ビジョンや行動計画を立てていく必要があります。

出典/Sustainable Development Report 2021

 

世界における日本の課題については、以前指標の記事でも触れた各国の進捗度をまとめているレポート「Sustainable Development Report」が参考になります。このレポートのなかで、日本の課題は「ゴール5:ジェンダー平等」「ゴール13:気候危機」「ゴール14:海の豊かさを守ろう」「ゴール15:陸の豊かさも守ろう」「ゴール17:パートナーシップで目標を達成しよう」が挙げられています。

 

特に気候危機・ジェンダー平等・パートナーシップの課題は、ここ数年赤い色から脱することができていません。

 

この3つは、ゼロエミッション(二酸化炭素排出をゼロにする)を実現する(13)ための協力体制(17)や雇用に女性を起用する(5)など、組み合わせて取り組むことで相乗効果も高いと思われる分野なので、地域の問題とも重ねて最優先に取り組んでいきたいところです。

 

 

世界の地域のビジョンづくり事例 

出典/LOCAL 2030

 

ここでは、ビジョンづくりの具体的なステップを見ていきます。実際に地域のビジョンをつくるのに、世界他国ではどのようなステップが踏まれているでしょう? SDGsをローカライズするためのプラットフォーム「LOCAL 2030」から、一つ事例をご紹介します。

 

指標の記事でも登場した、自治体をつなぐプラットフォーム(Platforma (platforma-dev.eu))が出したレポートでは、ビジョン(ありたい姿)とミッション(やるべきこと)を6つのステップで導く方法を紹介しています。

ステップ1:「持続可能な開発」の概念とSDGsを学ぶ

…まずはSDGsの基礎的な概念やアジェンダについて学びながら、世界ではどのようなビジョンを持っているのか、地域に求められていることを把握します。

ステップ2: キーワード出し

…次の質問でそれぞれ5つのポストイットに思いつくキーワードを書き留めます。

  • 自治体組織や地域で持続可能性が実現されているポイントは?
  • 2030年にあなたの地域をどのようにしたいか?

  (何をしなければならないか?/達成するために何を変更するか?)

  • 地域の取り組みとその付加価値は?
  • 地域が大切にしている価値観や信条は?

ステップ3:ポストイットをSDGのゴールごとに配置

…これによって世界の目標との整合を見ていきます。

ステップ4:結果についてグループと話し合い

 …多くの単語が集まったゴールは? 最も少ないゴールは?それはなぜか?を話し合いをしながら深めていきます。

ステップ5:グループで単語を選択

 …ミッションとビジョンの両方で実行可能な単語をグループで話し合って選択します。これらの言葉は地域の文脈となります。

ステップ6:ビジョンとミッションづくり

…ステップ5をもとにビジョンとミッションを書き出します。

下川町モデルからビジョンを共創するステップを学ぶ

出典/下川町資料

さらに国内でも複数の地域で、地域オリジナルのビジョンや条件を出すところが出てきています。特にSDGsの理念を反映しながら行われた事例として、ジャパンSDGsアワードを受賞した北海道にある下川町モデルをご紹介します。

下川町では住民が中心となって、地域のありたい姿を話し合いました。行政のなかにも「未来都市部会」というものが立ち上がり、住民と行政職員とが混ざり合い、何度も話し合いながらビジョンを作成したそうです。

問題のつながり理解からはじまり、下川町に増えていてほしいもの/減っていてほしいもの/変わらずにあってほしいものの洗い出しと、そのSDGsとの関連付けをして、最善シナリオと最悪シナリオの検討も行ったあとに、ありたい姿を描くというプロセスが採用されています。このなかには、世界やSDGsの実現にどう地域が貢献していくかにも触れられています。

さらに素案が出来たあと、パブリックコメントでより多くの住民からの意見を募集して反映し、外部の専門家の目も入れながら、より良いものにブラッシュアップしていく、まさしくマルチセクターパートナーシップで取り組まれているところも素晴らしい点です。

前述の事例と異なるところは、最悪シナリオを描くところ。未来のリスクを洗い出した上で町のビジョンとアクションに反映するということをやっています。気候危機や人口減少など、急激な変化が予測されている現代において、リスクを考慮したまちづくりは必須。

このやり方は、企業などで採用されている気候変動タスクフォース(TCFD)でも実施されていて、地域でも採用して取り組むことで、いざというときに備えておく、レジリエンス(復興力・強靭さ)を高めておくことができると言えます。

持続可能な地域とその先の世界との調和

SDGs=持続可能な開発目標にある「持続可能な」という言葉の意味は、「次世代のニーズを損なうことなく、現代のニーズを満たすこと」と説明されています。次世代のニーズに配慮するには、長期視点世界が調和するための視点が必要です。

そして、こういったことを踏まえた地域ビジョンをつくるには、地域を構成する地域にいるすべての人の視点が入ることが理想です。

みなさんの予定を合わせるのが難しいところではありますが、オンラインやテクノロジーを駆使したり、下川町のようにコミュニティリーダーを集めて行う、パブコメと組み合わせるなど工夫しながら、ぜひ取り組んでみていただけたらと思います。

忘れずにいたいのは、地域のビジョンができたあと、それを生かしてどのように世界に貢献し、世界平和を実現していくか、ということです。ぜひ地域ビジョンのなかに、他地域や他国との関係性も含めた上で、ロードマップやアクションプランを描いてみてくださいね。

さて、みなさんが未来に残したい地域、日本、世界はどんなものでしょうか?

参考ソース:

・SDG guide

https://sdg.guide/

・2030 Local

https://www.local2030.org/

・世界経済フォーラム記事

https://www.weforum.org/agenda/2013/03/backcasting-to-the-future/

・Sustainable Development Report 2021

https://www.sdgindex.org/

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