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フランスで見つけた持続可能な農業モデル

フランスで見つけた持続可能な農業モデル

SDGs未来都市と認定された岩手町。岩手町が目指す構想として「I-Valley」を掲げています。
その中でも岩手町の基幹産業である農業は、循環型/環境保全型農業の確立を目指し、様々なプロジェクトを複合的に少しずつ進めてきました。

共に同じ目標に向かって課題解決を共に進める、SDGsを軸とした”21世紀型姉妹都市連携”を通して「I-Valley」を実現できないかと、注目した国の一つがフランスです。

フランスは世界有数の農業輸出国の一つ。持続可能な農業の推進に力を入れており、法律や制度も進んでいます。また、フランスの首都であるパリは岩手町と同じ北緯40度線に位置しており、比較的環境が近い有名な農業地域もたくさんあります。岩手町の基幹産業も農業であることを考えると、フランスとの姉妹都市提携によって双方が学べることが多々ありそうです。

300人程度のコミューンが集まる町で作り続けられている、シードル・カルヴァドス

岩手町で多くを占める農業形態は、家族経営のような小規模生産型の農業です。フランスは大規模な農業というイメージが強いですが、小規模農家もたくさんあります。そのような農家がどのような生産や流通をしているのかを調査し、”販売形態と販路の選択肢を増やす”ことが重要であることがわかりました。

今回の調査として、ベンチマークとしたのが、”シードル”、”カルヴァドス”と呼ばれる「りんご」を主原料としたお酒です。
岩手町は「東北一のキャベツ生産量」を誇る町ですが、他の作物や畜産も非常に盛んな町です。その中で「りんご」も多く栽培しています。

今回フランスで訪れたのはノルマンディー地方のカルヴァドス県に属する”La houblonnière”という町で、人口330人程度のコミューンが集まる地域です。カルヴァトスやシードルの工場が立ち並び、”シードル街道”と呼ばれる地域の近くです。

「カルヴァドス」というお酒は、アップルブランデーの一つです。アップルブランデーは、りんごを発酵して造るアップルワイン(=シードル)を蒸留して造ったお酒になります。。

主にフランス北部やイギリス、アメリカで造られており、フランスでは「オー・ド・ヴィー・ド・シードル」と呼ばれるものです。そして、このカルヴァドス県とその近隣の県で造られるアップルブランデーを「カルヴァドス」と言います。同じ製法で作られたものであっても他地域ではカルヴァドスを名乗ることはできず、カルヴァドス県のブランド品となっています。

これは「AOC(原産地呼称統制制度)」という制度に認定されているためで、ヨーロッパではこの法制度によって原産地を守り、持続可能な取り組みにしていく取り組みが進められています。(日本はこの保護施策が弱いことが以前より指摘されています。)

このカルヴァドス県とその近隣の県域で造られた「オー・ド・ヴィー・ド・シードル」のみが「カルヴァドス」を名乗ることができます。また、カルヴァドスのアルコール度数は最低40度、最低2年以上の熟成期間が義務付けられており、それをクリアしたものが晴れてカルヴァドスと名付けられ、出荷されていきます。

牛のお世話からシードルの販売まで

今回、訪問させていただいたのはこちら「Calvados Christian Drouin」というカルヴァドスやシードルなどを自家生産・販売している農家さんです。

オーナーにお会いし、りんごの生産から、シードル・カルヴァドスの作り方、販売方法まで教えていただくことができました。

まずはりんごが生産されている圃場。

少し歩くと牛が放牧されています。園内には牧草が広がっていました。

シードルの製造工場の中まで、ご丁寧にご案内してくださいました。
先祖代々引き継がれる施設内にはオーク材で作られたカルヴァドスの樽が並んでおり、芳醇な香りが漂っていました。ここで最低2年以上熟成させていくわけですが、10年、20年ものになると樽の中で蒸発して減ってしまうため、長期間熟成されたカルヴァドスはとても貴重とのこと。

【シードルやカルヴァドスの作り方が書かれたボード】

シードル・カルヴァドスは同じ原料から作られますが、製造工程を変えることで全く違ったものになります。
たくさんの自社ブランド品の試飲をさせていただき、その違いを肌で感じることができました。
(そして本場のシードルはとっても美味しかった・・!)
原材料や設備を大掛かりにせず、構成によって商品にレパートリーを持たせられるのは、とても大きな強みです。

フランスで見つけた持続可能な農業モデル

この農場では、先祖代々引き継いできた土地や設備、建物などの資産をそのまま活用して、家族経営でも数億の売上を挙げているようです。

ここで作られているりんごの多くは、粒が小さく甘みも少ない酸味種です。カルヴァドスの原料となるりんごは48種類が認定を受けており、果汁の中に含まれる酸やタンニンの量によって苦味種、甘苦味種、甘味種、酸味種の4つに分類されています。

りんごが実を付けると、特殊な装置が付いた車両で機械的に木を揺すって大胆に振り落とし、収穫していきます。かなり雑な扱いでこれにはとても驚きましたが「どうせ加工してしまうから落ちて傷がついても関係ない」とのこと。

集めたりんごは日かげの風通しのよい場所で追熟された後、ベルトコンベアのような機械で選別し、破砕・圧搾用の機械に投入、採れた果汁を発酵させていくという流れで作られていきます。

りんごは、生鮮な状態では高価な価格で売ることが困難です。特に苦味種や酸味種は生食には向いていません。しかし、二次加工を行い、カルヴァドスのようなブランドとして価値を創出して販売することで家族経営の農家でも数億規模の事業を行うことが可能になることがわかりました。

これを実現させているのは、何といっても「制度に守られていること」「ブランドとして成立していること」が前提となります。「持続可能な農業」の事業モデルを確立していくためのフランスの農業分野の地盤の強さが感じられました。

もう一つ、気になるのはなぜリンゴ園が酪農もやっているのか、という点です。これは代々伝わる農法で、りんごを生産している農家は酪農も同時に行っているそうです。

岩手町でも強みとしている”耕畜連携”ですが、今回訪問した工場では、カルヴァドス・シードルの製造をメインに行いながら、ミルクを販売、牛の糞尿で土作りを行うという、複数のキャッシュポイントを持っていました。

たしかに無農薬のりんごを作っている圃場であれば牛が一緒にいても問題なく、肥料なども作れるなどのメリットもあります。

農薬や化学肥料をできるだけ用いない手法を確立すると共に、比較的高価格帯で販売できる付加価値の高い商品を作り、販売し続けている事業モデルは、まさに自然環境保護×経済循環という”持続可能”なモデルでした。

”ノルマンディー”というだけで、世界中から”カルヴァドスやシードルが美味しい”というプラスのイメージが想起されるという地域ブランディングも確立しています。

時間はかかりますが、地域ブランディングとの相乗効果が、大きく地域事業にプラスに影響することを今回の調査で確認することができました。

実際、日本一のりんごの生産量を誇る弘前市は、フランス街道のブーヴロン村とシードルの発展のため協定を結んでいます。

岩手町は、このような持続可能な農業モデルを持っている地域との提携を進めながら、既存の農業の発展や新しい農業の在り方などを模索していきます。

<参考文献>

https://www.calvados-drouin.com/
https://www.clairparis.org/ja/clair-paris-blog-jp/blog-2018-jp/1230-2018-11-13-09-16-24

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