前の記事では、フランスのサン=ポル=ド=レオンにある農協、SICA(シカ)が立ち上げた野菜ブランドが生み出した価値についてご紹介しました。
本記事では、SICAが立ち上げた研究施設を中心に、その取り組みを紹介していきます!
SICAの取り組み③地元の気候で応用研究を実施し、多様な品種を生産
SICAは、「生産者のため、ブルターニュ地域のため」という目的のもと、さまざまな関連施設を次々と設立しました。
その一つに、1982年に設立されたCATÉ(カテ:Comité d’Action Technique et Économique)があります。
CATÉホームページ(https://www.station-cate.fr/)
CATÉでは、生産で発生した技術的な問題を解決したり、消費の変化に対応したりすることを目的に、新鮮な野菜や観賞用園芸、栽培キノコの応用研究を行っています。
トマトは栽培時に大量の水を使用することが知られています。一方で、世界的な課題の1つに、水不足があります。「トマトの栽培時の水の量を減らすことはできないか」というテーマで応用研究を行っているそうです。上の写真中、職員さんが手をかけているのは土ではなく、ココナッツの繊維を用いて作られた基質。これにより、ぐんと栽培に使う水の量が減るとのこと。そして、栽培に使用した基質は業者さんが回収し、再利用されるそうです。研究にしっかりとSDGsの視点を取り入れていました。
そうして、栽培方法を工夫しながら、「さまざまな種類の野菜を作ってみる」という応用研究もしているそうです。CATÉがあるサン=ポル=ド=レオンでは、1960年代にはカリフラワー、アーティチョーク、ジャガイモの3種類しか生産されていなかったそうですが、今では134種類の品目を育てているそうです。
「なぜ新しい種類の開発をするのですか?」と職員さんに伺ったところ、「将来、地球温暖化で気候が変わった時、その気候に合う種に切り替えていくことができる」と笑顔でおっしゃっていました。地球温暖化をできるだけ食い止めながら、それでも現実を見て持続可能な未来のために今できることをしていく姿が印象的でした。
その他にも、「消費者の多様なニーズに応えることができる」ことも理由の1つだそう。CATÉが生産から梱包、販売までを行うSICAと協業することで、強みがかけ合わさっていました。
紫色のカリフラワー作りにも挑戦していました
CATÉ職員さんのあくなき探究心に脱帽。極め付けに、「実は、日本の桃を食べてみたいんだ!」と職員さんがキラキラした目で教えてくださいました。研究の原動力に好奇心あり…!
SICAの取り組み④研究結果を地元の農家さんに還元する仕組みを確立
SICAとCATÉは別施設です。その距離は車でなんと2分程度。
町の中で農業関連施設が集約されています。
さて、地元に研究所を持つ強みはなんでしょうか?
地元の土や気候で研究を行うことで、地域に合った作物の研究を行うことができます。その上、その研究結果を近くにいる地元の農家さんにすぐに、直接共有できます。
CATÉでの研究結果は、月に1度、地元の農家さんを集めた場で発表されるそうです(任意参加とのこと!)。「この研究結果を取り入れたい!」と農家さんが表明したら、CATÉの職員さんがそのノウハウを農家さんに教えるそうです。
月に1度の報告会を待たなくても、地元の農家さんは事前予約をするだけでいつでもCATÉを訪問し、職員さんとコミュニケーションを取ったりすることが可能だそうです。
研究所と現場の距離が近く、現場のニーズからまた研究が生まれ、研究結果から地元の農家さんがよりよい農作物をつくることができる…。なんたる好循環。シンプルな仕組みですが、とても重要な取り組みと感じました。
CATÉの施設見学をし終えて、最後に聞きました。
「岩手町は冬の寒さが厳しく、雪も降ります。岩手町にもCATÉのような研究所を作りたいと思っても、ハウスの暖房費などコストがかかりそうです。岩手町にも作ることができますでしょうか…?」
CATÉの所長さんは笑いながら、こう答えてくださました。
「やりたい、と思ったら、必ずできる方法があるんだよ!知恵を絞って、岩手町に合った研究施設をぜひ作って欲しい!」
この「まずやってみる」という職員さん・農家の方々のチャレンジ精神が、今のサン=ポル=ド=レオンを創ったのだということに気づかされる回答でした。
次の記事では、SICAが持つその他の施設についても紹介します!