子育てする場所を考えるとき、気になることの一つが「この町で、子どもはどんな経験を積めるのか」という点ではないでしょうか。
岩手町の中学2年生には、英会話研修プログラムに参加するチャンスがあると聞いて、「なんと素敵な機会!」と取材してきました。これは2025年で32回目を迎える長年の取り組みで、これまでに約400人の研修生を送り出してきた歴史あるプログラムです。
「岩手町の子どもが世界のどこへ行っても誰とでもコミュニケーションが取れるようになってほしい」という想いが岩手町として研修を実施する背景にあります。実際に2011年に英会話研修に参加して英語への関心を高め、国際的な視点でキャリアを築かれてきた柴田衣々桜さんにもお話を伺いました。
英語を学ぶことが、進路や生き方、そして地域との関わり方にどのようにつながっていくのか。その歩みから、このプログラムの魅力を見てみましょう。
研修中の会話は全て英語!英語で過ごす、特別な時間
「ブリティッシュヒルズ研修」と呼ばれるこのプログラムでは、町内3校の中学校(沼宮内中学校・川口中学校・一方井中学校)から選抜・推薦された12名が1週間弱、福島県のブリティッシュヒルズに滞在し、英会話研修を受講します。施設内では英語での会話が基本。授業では、スコーン作りやクリケット体験など、英国文化を題材にしながら英語を学んでいきます。たとえばスコーン作りでは、英語で書かれたレシピを読み解くところから始まるそうです。言葉を「勉強する」だけでなく、文化ごと「体験する」学びが用意されています。
こうした学び方は、文法中心ではなく、意味のあるコミュニケーションを通して言語を身につけていくスタイルです。実際に参加した生徒からも、「英語でのコミュニケーションに自信がついた」「海外で仕事をしてみたいと思うようになった」といった声が寄せられているといいます。英語を通じて、世界への関心や自分の可能性が広がっていくことがうかがえます。毎年人気が高く、応募が競争になる中学校もあるとか。

こういった文法中心ではなく、意味のあるコミュニケーションを通して学ぶスタイルは世界的に「CLT(Communicative Language Teaching)」と呼ばれています。これまでの研究では、「ちょっと間違っても話してみよう」と会話へのためらいが少なくなり、発話量が増え、「英語で話してみよう」という意欲が向上することが示されています。
実際に岩手町でこれまで参加した生徒の感想も、「英語でのコミュニケーションに自信がついた」、「海外で仕事をしてみたいと思うようになった」など、英語への興味関心が上がっていることがわかります。
柴田さんが岩手町の英会話研修プログラムに参加した理由
柴田衣々桜さんは2011年にこの研修プログラムに参加しました。その年は震災直後だったこともあり、場所を京都に変更して実施されました。柴田さんは海外の方も多く泊まっているユースホステルに宿泊し、京都大学の留学生と交流や市内散策、ワークショップを経験されたそうです。
もともと当時町内にあった英語教室に小3から通っていて、英語が好きだったと言います。一方で、とても人見知りだったそう。英語をさらに学びたいという気持ちに加えて、自分の力を試したいという思いから、研修への参加を決めました。
研修で得た原体験「伝わった!」の瞬間
柴田さんが最も印象に残っている研修エピソードをお伺いしました。それは、京都の嵐山を少人数のグループで海外の人マップを見ながら竹藪の中を歩いていた時のこと。柴田さんはふと、竹から連想して、かぐや姫のエピソードを海外の人に喋ってみたくなりました。自分の語彙力の中で説明してみると、「面白いね」と反応が返ってきたそう。
「通じた!!!!」「喜んでもらえた!!!」と柴田さんは達成感を感じました。当時、これまでの人生の中でもとても嬉しい出来事だったそうです。言いたいことが通じることや反応がもらえることの喜びを体感し、もっと経験したいと意欲につながりました。人見知りだった柴田さんは、その後、英語のおかげで人見知りがなくなっていったそうです。
研修で得た原体験が元になり、就職・岩手町へのUターンへ
柴田さんはその後、大学進学で岩手町を離れました。国際政治をテーマに学び、平和やテロについての研究に取り組みました。そして「英語力を活かしたい」と関東のホテル業界へ就職。インバウンド比率が50%を占めるホテルで、アジアやヨーロッパからのお客様へのおもてなしに日々向き合ってきたそうです。今は岩手町にUターンされ、「岩手町の魅力をもっと海外の方に伝えたい」という想いから、英語版の町公式インスタグラムを立ち上げ、発信に取り組んでいます。

産業祭りにてアイルランドに触れる機会を子どもから大人にまで提供する柴田さん
転職の理由について聞いてみると、「最初から関東で働くのは3年間、と決めていたんです」とキラキラした目でお返事が返ってきました。大学進学で岩手町を離れた際に、自分の視野が広くなったと感じたことをきっかけに、人生の経験として関東で働きたいと思った柴田さん。しかし、関東にずっと住むつもりは当初からなく、生まれ育った岩手町は食材や空気がおいしく、家族もいることから将来的に子育てがしやすいだろうと判断し、3年後に岩手町に戻るという固い決心があったそう。
岩手町の観光地の現状を把握するために、外へ出て調査をする日々を過ごしています。出先で会う町の方々は観光地の詳しいことをたくさん知っているとのことで、町への愛着や誇りの高さなどを感じて発信へのモチベーションがどんどん高まるそうです。町内で柴田さんをお見かけしたら、ぜひ声をかけてみてください。

「沼宮内伝説」の伝わる大安良神社階段からの景色。「まるで異世界から現実に続く道のよう」と柴田さんは表現します(柴田さん撮影)
岩手町にいながら国際感覚を身につける
「よく、『海外に行ったからこそ日本の良さがわかった』という話を聞くじゃないですか。あれと同じです。岩手県の外に出たからこそ、岩手町の魅力がわかりました」
柴田さんは岩手町のみなさんに伝えたいことがあると話します。
「積極的に県外の人と話す、県外に出てあちこち歩いて人と話すことで岩手町の魅力に気がついてほしいです」
編集後記 〜 AI時代に英語で生活を豊かに 〜
震災直後でも学びを止めずに実施した、この町に脈々と続く研修プログラムが、町の未来に繋がっていました。日本にいながら英語漬けな環境で過ごすことができる経験は非常に貴重なものだと思います。AIの進化が加速し、社会への実装が進む中で、今後どれだけ英語を話すスキルが求められるかについてはさまざまな意見がありますが、柴田さんのお話を伺っても、自分の中に「英語」というスキルが加わると、物事を見る視点や捉え方が変わり、生活が豊かになるという本質的なところは将来も変わらないと思います。
ちなみに、柴田さんの目線から発信される町公式インスタグラムの投稿は、英語と日本語が併記されていて、漢字には振り仮名もついているので、英語勉強にもとってもおすすめです!











