どんな取り組みやプロジェクトも、実現するには資金が必要! どのように資金を調達する? これは、プロジェクトを進めるほとんどの人が持つ、まさに共通課題とも言えます。
SDGs において、世界ではどのように資金を調達しプロジェクトや雇用を生みだしているのでしょう? 他国・他地域ではどのような事例があるのでしょうか?
今回の記事では、世界のSDGs にまつわる”お金の流れ”を捉えつつ、国や地域の事例を見ながら、どのように資金を確保していくのか、そのヒントを見ていきます。
どれくらい雇用を生む? SDGs の市場予測と経済効果
SDGs によって世界にどれくらいの市場が生まれるのでしょう?
ビジネスと持続可能な発展委員会によれば、SDGs を達成するにあたり12兆米ドル(約1,300兆円)の市場機会を開拓することができると言います(2017)。さらにこれによって、3億8,000万の新しい仕事を創出することができるとの試算も。ここにはもちろん、わたしたちの住む日本も含まれています。
そしてSDGs 実現に向けた市場や雇用の創出に取り組むことによって、気候変動から出る被害額を、2030年までにおよそ26兆ドル(約2,900兆円)も節約できると言われています。2018年の西日本災害のときの総被害額が「およそ1.3兆円」(出典/国交省)にもなった日本にとっては、大きく影響しそうなところです。
実際にはどれくらいの資金が動いているでしょうか? UNCTADの推定(2020)によると、持続可能性をテーマにしたファンドは、世界に 3,100 以上、運用資産は約 9,000 億ドル(およそ99兆円)に上るとし、2010 年から 2019 年にかけて、ヨーロッパと米国のこのようなファンドは 1,304 から 2,708 に増加、運用資産は 1,950 億ドルから 8,130 億ドル(およそ90兆円)に増加していると報告しています。
日本の経団連も2030年には生産増(+1050兆円)のうち760兆円、付加価値増(+369兆円)のうち250兆円は、SDGs 関連の新分野だとの試算を出しており、日本でも大きな市場可能性を持っていると言えます。
※ 2021.6月時点 / 1ドル=110.7円
出典/デロイト
これまで150か国以上が国家戦略にSDGs を取り込んでいると言われていますが、では具体的にどのように取り組みを進めていくのか? これに関して国連の事務総長は、次のように戦略を示しています(出典/国連ページ)。
① 世界の経済政策と金融システムを2030アジェンダに合わせる
② 地域および国レベルでの持続可能な資金調達戦略と投資の強化
③ 金融革新、新技術、デジタル化の可能性をつかみ、金融への公平なアクセスを提供
まずは、行政や金融機関がアジェンダに合わせた施策を実施、そこに合わせた資金調達と投資を強化していく、そのためにシステムの革新とともに公平なアクセスを実現していくこととしています。
「誰ひとり取り残されない経済」にするために、公正なアクセスの確保に取り組むことは、地域においても重要なことですが、他国ではモバイルサービスやアプリを使った口座開設を可能にするプロジェクトなどを行っているところもあります。
日本でも一部の地域では、社会的な信用が示せず住宅を借りられない低所得者向けに、入居をサポートする取り組みなども出てきていますが、ここには銀行口座を持つことも必要となってきます。
金融アクセスの確保は、人権や尊厳を守ることにもつながり、生活実現においても必要不可欠なことから、誰ひとり取り残されない社会実現のための第一歩とも言えるかもしれません。
SDGs 金融における国内の動き
出典/内閣府
では、わたしたちが住む日本では、SDGs においてどのような動きがあるでしょう?
2015年にSDGs が採択されてから、日本国内では2016年に各省庁から人員を集めてSDGs推進本部が設置されました。さらに2018年度から毎年未来都市を認定したり、国家予算の一部にSDGs が採用されています。
さらに内閣府では、経済の「自律的好循環」を形成するためとして、① 民間企業や金融機関などの関係者と連携し、地域事業者等を対象にした登録・認証制度の展開や、② 地域金融機関等への表彰制度の設置、③ さまざまな関係者とともに事業の取り組みに対する評価手法の構築など、金融施策づくり に取り組むとしています。
これを受けて、いち早く横浜市や長野県では、SDGs 企業認証制度に取り組み、地域企業に呼びかけを行っています。さらに制度の評価を入札に反映させていくことも検討し始めており、金融とプロジェクトの連動をつくろうとする動きも出てきています。
一方金融庁では、SDGs の取り組みにおいて、投資家と企業の建設的な対話を通じた企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向け「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コード」を整備していくと掲げられました。
「コーポレートガバナンス・コード」とは、上場企業が守るべき企業統治の行動規範として出されたもの。金融庁はこれをもとに、取締役会の確保すべき多様性として「ジェンダー」や「国際性」が含まれるよう取り組んでいくことを明示しています。
対して「スチュワードシップ・コード」とは、銀行、証券、保険会社、年金基金などの投資家に対して、投資先企業の中長期的な成長を促すために求められる行動規範のことを指します。金融庁はこれを通して、機関投資家が中長期的視点から、投資先企業の事業における社会・環境問題に関するリスク・収益機会を例示するよう求めています。
さらにSDGs 13のゴールにもある気候変動の激化が予測されるなか、その対応として自らの事業リスクと機会を把握することと「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)報告書」によって、事業リスクと機会を情報開示することを期待するとしています。
国内の大きなお金の流れにおいても、「SDGs」や「持続可能性の実現」に資金が使われていく気運が高まってきています。
そもそも “持続可能な” 経済って??
SDGs によって期待される市場や雇用創出が大きなものだとわかったところで、実際にどのような経済を作っていけばいいか? 疑問が生まれます。そこで一旦「そもそも持続可能な経済とは、どんなものか」を考えてみましょう。
「持続可能性(Sustainability)」の定義については、環境と開発に関する世界委員会から出された報告書「Our Common Future(1987)」や説明サイトでは「環境・社会・経済の分野において、次世代のニーズを損なうことなく現代のニーズを満たすこと」と示しています。
しかし、実際にはこれらが実現できていないのが現実です。例えば、こどもを強制的に働かせる「児童労働」によって作られているもの、自然を大きく破壊して作られているものなど、わたしたちが商品やサービスを 意識せずに選んでいると、その裏側で問題につながっているものも多く存在しています。
持続可能な経済とはどんなもの? それは、このような問題がない状態、自然や生態系の破壊がない、関わるすべての人の安全が確保できていて、すべての人の豊かさを実現する、そのような経済だと言えるかもしれません。
世界の有識者が集まる世界経済フォーラムでも「ステークホルダー資本主義」という考え方が出てきていますが、上記のような問題の解決に向けて、これまでの「株主第一主義」ではなく「地域も含めた関係者に利益を還元していく・そこに責任を持つこと重要である」という考え方が世界で主流になりつつあります。
特にSDGsでも重要なのは、「世界の豊かさ」と「国の豊かさ」と「地域の豊かさ」と「身近な豊かさ」を調和させ、それが続いていく経済、未来のことを見据えた経済に取り組んでいくことが必要だと言えます。
問題依存をつくる経済やビジネスに注意!グローバル化と地域の関係
さて、これをもとに地域の経済を見ていきましょう。
突然ですが、みなさんは今日食べたものが、どこの素材で、どこで誰がつくって、どのように運ばれてきたか説明できますか?
そのなかには、海外の食材を使って、他国の工場で作られたものもあるかもしれません。これは、あなたの使ったお金が地域外に流れている一例です。このような消費活動が増えると、地域や日本の経済はどうなってしまうでしょう?
ここには、海外産の資源や多国籍企業が入ってきたこと、東京に本社があるチェーン店ビジネスが台頭したことなど複雑化したことによって、経済の中身が見えづらくしてしまったことが影響しています。
一見雇用が生まれ、経済が盛り上がっているように見えて、地域への経済還元率が低かったり、地元の製造業などの雇用機会を奪い格差を広げたり、地元の伝統文化に影響したりといった側面もあります。こういったグローバリセーション(グローバル化)への疑念は、世界のいたるところで囁かれています(出典/日経新聞社)。
また、チェーン店ビジネスによる地域支配とともに、従業員の標準化によるAIやロボットへの代替が進むといったテクノロジーに取って代わられることでの雇用喪失や、地域文化の西洋化も指摘されています。
ある国では「都市経済の肥大化」と「地方経済の衰退」の構造が、スラム街を生む一つの要因ともなっています。グローバリセーションによって都市のお金が他国へ流出し、それまで都市経済を支えていた地方の雇用を一部奪ってしまうことにもつながっています。
そこで地方の人たちは都市に出稼ぎに来るものの、地価が高騰し生活水準が高い都市では住むところを確保できず、不法な土地にスラム街をつくって住むしかないといった構造です。もちろん、企業誘致や輸入によって他国の経済を支えている側面もあったり、自国で賄えない分を補っている側面もあるので、一概にすべてが悪いとも言えません。
しかし、地域外に依存することで雇用機会を失い地域の自給力が育ちにくい点【経済】や、長距離の移動に温室効果ガス排出を伴う現状から環境負荷が高まってしまう点【環境】、地域のつながりや文化が薄れてしまう点【社会】があることは、無視することはできません。
【環境】【社会】【経済】3つの側面を見ながら向上させ調和させていくことが、持続可能な経済に必要だと先程触れましたが、地域経済をどのように地域自らにデザインしていくかにおいて、これらの視点は欠かせません。
地域も “世界も” 豊かにする、真の意味での “持続可能な” 経済とは?
地域経済が他国・他地域に依存している以上、SDGs に取り組むには、地域経済の持続可能性を考えるとともに、世界との調和も同時に見ていく必要があります。そこを理解し取り組むヒントをSDGs は示してくれています。
持続可能な経済においてひとつ考慮したいのが、低所得国で起きている「寄付依存(寄付をもらい続けること)」の問題です。SDGs でも途上国への開発協力について触れていますが、高所得国が低所得国のことを支援していく、ここにはさまざまな議論が存在します。
過去に高所得国や国際機関の一方的な支援によって、低所得国が「貧困」イメージから脱することが難しくなってしまい、そのイメージを利用して資金を集める団体が非難される実態がありました(貧困ビジネス)。
対話を通してその地域のニーズを汲んでいるか? 一方的な取り組みでないか? 資金を投入するにも、そのお金で何を実現したいのか? 問題を解決した後も含めた、長期ビジョンを当事者を含んでつくり上げることが重要となってきています。
ここまでのことを踏まえ、SDGs に取り組む前に「どんな経済が持続可能なのか」を地域のみなさんで考えるのも良いかもしれません。
〜後半に続く〜