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世代を超えて、郷土を愉しみ味わう場をつくる

心身の健康があってこその幸せを、子ども食堂から。

近年課題とされている子どもの貧困や孤食、親の孤立への対策として、地域住民や自治体が主体的に企画・運営する「子ども食堂」。実は貧困や孤立対策だけでなく、食育や地域のコミュニケーションの場としての側面もあります。

岩手町でも2021年からスタートした子ども食堂は、子どもから高齢者までが集い、地域みんなの心とからだの健康をつくる場所。構想から3年目を迎えた当プロジェクトの実例をご紹介します。

発端は、まちの人たちのアイデア

2020年にスタートした、岩手町の実験拠点「いわて町ラボ」。ラボが始まった当初、職業や肩書き、立場の異なるさまざまな人が集い、2030年に向けたビジョンを描いたり、そのビジョンを叶えるためのアイデア出しを実施しました。その際、いくつかのアイデアを掛け合わせ実施に向けた検討がスタートしたプロジェクトのひとつが、子ども食堂でした。

いわて町ラボの初回の様子。総勢118名の方が参加しました

子ども食堂といえば、その課題の深刻さから「貧困」というテーマで認識されることが少なくないかもしれません。しかし実際は、日本全国に広がる子ども食堂にはさまざまな形があり、たとえば高齢者と子どもが交流する仕掛けをもつ、多世代交流をテーマとするものもあります。

高齢化率(65歳以上の人口割合)が約4割の岩手町では、子どもも高齢者も、プロもアマチュアも、誰もが気軽にスポーツや食を通じた交流を楽しむ健康づくりをすることを目指し、心身ともに健康な状態――ウェルビーイングであってこその幸せを意味する「健幸(けんこう)」をテーマに、多世代交流型の子ども食堂を企画しています。

地域食材、伝統食×アート・スポーツなど、まちの特徴や地域資源を活かしながら、多世代が交流する機会や場を増やすことで、地域全体で子育てをバックアップすることにつながることを期待し実施してきました。

コロナ禍でも、できることから。

岩手町の子ども食堂の幕が開けたのは、2021年11月。一方井(いっかたい)地区で交流企画として実施しました。参加者は、子ども30名、大人7名。一方井学童保育クラブ、岩手町食生活改善推進協議会、そしてJ3リーグのプロサッカークラブ「いわてグルージャ盛岡」の協力のもと開催する運びとなりました。

いわてグルージャ盛岡は、岩手県全14市15町4村をホームタウンとするサッカークラブ。各自治体との連携などを担当するホームタウン担当の方が、第1回のプロジェクトマネジャーとして参画してくださいました。いわてグルージャ盛岡は地域活動に熱心なクラブなうえ、そもそもJリーグは子ども食堂を推進している背景もあり、岩手県の各市町村に少なくともそれぞれ1ヶ所子ども食堂をつくろうと活動されていることからご協力いただきました。

一方井地区で実施した第1回子ども食堂での集合写真

当日のプログラムは主に2つ。いわてグルージャ盛岡によるサッカー教室と、岩手町食生活改善推進協議会による岩手町の伝統食のお話と提供です。

提供した伝統食は、岩手県に伝わる「がんづき」と「みそぱさみ」。がんづきは、雁(がん)に似ていることからその名がついたといわれる、小麦粉、卵、胡麻や胡桃などシンプルな素材でつくられる素朴な蒸しパンのようなものです。腹持ちが良く、農作業の合間の小昼(こびり)や、日常的なおやつとして食されてきました。「みそぱさみ」は、胡桃と味噌、砂糖でつくられた胡桃味噌あんを皮で包んだもので、どちらも古くから地元で愛されてきた郷土菓子です。

みんなで食卓を囲む楽しさを味わうことも子ども食堂の価値のひとつですが、第1回の子ども食堂は残念ながら新型コロナ感染症対策として、持ち帰りとして提供することに。それでも、プロ選手からサッカーを教わりからだを動かして、地域に伝わる食文化の背景を知ったうえで郷土菓子を食べるというプログラムを通して、まちの子どもと大人が交流する機会となりました。

左から、がんづき、みそぱさみ。茹でて仕上げるみそぱさみは艶もあり、まるで和菓子のような仕上がりに

まちとまちがつながった第2回

第2回の開催は、幕開けから約半年後の水堀地区にて。第1回を経て、新たに他の地域の人とも関わりをもつことが第2回の試みとなりました。そこで連携したのが、2020年から活動を開始し、既に10回程子ども食堂を実施していた「まちサポ雫石」(回数は2022年11月現在)。

まちサポ雫石は、盛岡市の西側に位置する雫石町が拠点の、「移動する」「貧困世帯支援を打ち出さない」ことを特徴とする子ども食堂「しずくいし子育ち子ども食堂」を運営しているNPOです。第2回はまちサポ雫石と共催することで、雫石町の小学生との交流を目的としたファミリーマートの助成事業としての開催が実現したり、開催地区は水堀地区にもかかわらず沼宮内地区の子どもたちが多く参加したりと、子どもたちは他所のまちの友達をつくることが叶いました。

プロの選手やコーチから手解きを受け、仲間たちと集中して練習に励みます

いわてグルージャ盛岡の選手によるサッカー教室が前回に引き続き開催されたり、循環型食器「edish」を丸紅株式会社から提供いただいたり、いわて電力からの備品提供やJA新いわてより食事提供の協力をいただいたりするなど、第2回はさまざまな事業者の参画も実現しました。

第2回の食事のテーマは「地元産の食材の良さを知ること」。JA新いわて女性部の方々から、野菜を皮ごと食べる美味しさや、規格外の野菜も見た目だけの問題で味わいは変わらないこと、食べ方の工夫でフードロスは防げることなどを学ぶ機会になりました。

にんじんの皮はβ-カロテンを多く含み栄養たっぷり。スープにして皮ごと食べればフードロス削減にもつながります

コラボレーションの輪をもっと広げたい

2022年は第3回も企画していたところ、感染症の拡大を鑑みて止むを得ず延期に。当初、岩手町地域おこし協力隊の方による英会話教室の開催を予定しており、岩手町の子ども食堂は毎回工夫の施されたプログラムを組んでいます。

こうした「行ってみたい!」と多世代の方が思うような子ども食堂のプログラムづくりの背景には、運営メンバーの試行錯誤や、他団体とのコラボレーションがあります。また、「子ども食堂」という文字通り、食事の提供は大前提。多くの子ども食堂と同様、岩手町の子ども食堂も食材や資金面の持続性が課題になっています。

地元企業や関心のある方が子ども食堂の輪に加わり、多世代が交流する機会や場が増え、地域全体で子育てをバックアップすることで、岩手町が未来につづくまちになっていくことを期待して、岩手町の子ども食堂プロジェクトはこれからも活動していきます。

ご相談・お問い合わせ

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