「まちづくりの担い手は、住んでいるみなさん、あなた自身なのです。」
岩手町では、「対話型」でのまちづくりが数多く行われており、今回の記事ではその中でも「にぎわいみーてぃんぐ」と「世界一楽しいきっかけづくり」という2つの取り組みに着目します。対話を通じて町民自らがやりたいことを見つけ、実際にアクションすることで地域にとっても良いことに繋げていく——そうした実践から町民主体のまちづくりの基盤をつくる。この記事では、そんな取り組みの実例を紹介しつつ、対話から導かれる岩手町のこれからについて考えていきます。
「知り合い人口」を増やす、にぎわいみーてぃんぐ
日本全体で人口急減と超高齢化が進むいま、岩手町でも2040年には人口が現在の約半分まで減少すると試算されています。そんな状況のなかで、地域内での「知り合い人口」を増やし、自分のやりたいことを仲間と実践していく基盤をつくっていく取り組みとして、「にぎわいみーてぃんぐ」があります。
「にぎわいみーてぃんぐ」で世代を超えて岩手町について話す
にぎわいみーてぃんぐでは、岩手町を一方井・東部・沼宮内・川口の4地区に分け、地区毎にミーティングを実施します。5人程度のグループをつくり、性別や年代を超えて、自分の地区について話をすることからはじまります。そんなにぎわいみーてぃんぐの目的は、「仲間ときっかけをつくること」。地域について話し、地域でのやりたいことを見つけ、実現するきっかけをみんなでつくっていく。そうすることで、将来的に人口が減少してしまっても、世代を超えて対話がしやすく、行動がしやすい地域になっていれば、その地域はより活性化して状態を保つことができます。
にぎわいみーてぃんぐでは、「理想の岩手町」「岩手町のいいところ・課題」などをお題にグループで話をし、そこから地域への課題に紐付け、具体的なアクションの実行へと繋げていきます。そして、にぎわいみーてぃんぐの対話から生まれたアイデアを実践するための取り組みが、「世界一たのしいきっかけづくり」です。
世界一たのしいきっかけづくり
「世界一たのしいきっかけづくり」では、実際に地域に働きかけることを大切にしています。自分自身が気になっていたことを行動に移すことで視点が変わり、地域自体がより「自分ごと」として感じることができるからです。
「世界一たのしいきっかけづくり」にて、ゴミ拾いウォーキングのグループの様子
30年ぶりに「ごんぼ市」を復活させたグループのメンバー
「豆腐フェス」で豆腐をつくってみんなで食べるといったことも。
そのきっかけづくりを通して、一方井地域の名産「黒内豆腐」の魅力を発信するイベント「ToFes」や、かつては月1回の恒例市場だったものの30年間実施できていなかった市場「復活ごんぼいち」などが地域で実際に実現しています。
より楽しくウォーキングをしたいという想いから発展した「はてなウォーキング」は、ゴミ拾いだけではなく、町をいろいろな視点で観察しながら歩くことで、ゴミ拾いに普段参加していなかった層も巻き込みながら地域でのウォーキングを実施しています。このように、小さくても行動に起こすことで地域との関わりを育むことができるのが、世界一たのしいきっかけづくりの最大の魅力であり意義なのです。
町民主体のまちづくり
「まちづくりには担い手やリーダーが不足しているとよく言われるけれど、実際はそんなことはなくて。みんな心の中に小さなリーダーシップを持っていて、一人ひとりが小さいことを表に出して、それが地域と交わることができる伸びしろがあれば、それはまちづくりになると思うんです。まちづくりの担い手は、住んでいるみなさん、あなた自身なのです。」
そう語るのは、2つの取り組みを牽引するまちづくりファシリテーターの山口覚さん。「にぎわいみーてぃんぐ」や「世界一たのしいきっかけづくり」は、まちづくりに関わる人を増やし、よりよいまちにしていくための力強い取り組みです。アイデアを共有し実際に地域でアクションすることで、やればできるという経験値をもつ町民が増えていき、その町民が次に運営側に回ることで、参加と運営の循環関係も構築できます。
人と繋がり、話す——シンプルなことでありながら、ここで実践されているのは「議論」ではなく、一人ひとりの想いに耳を澄ませてアイデアを繋ぎ許容しあう、「対話」だと言えます。そうした対話が地域に根付くことで、地域の社会的な豊かさを生み出すこともできます。小さくても自分のやりたいことを実践し、地域に対する愛着を育み、町民主体のまちづくりに繋げていくことが、これからの持続可能なまちづくりの基盤となっていくことでしょう。