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森づくりは、川、海、食べ物、暮らしづくり。

岩手町の「山を守る文化」を伝承しながら、新たな担い手を育んでいく。

自然との密接な関係性が息づく岩手町。季節ごとに美しい表情を見せてくれる森や山々は、今ある岐路に立っています。森林所有者は大勢いるなか、兼業林業に取り組む人々は高齢になり、担い手が足りていない。そこで、町の人々が森に関わる機会をつくり、町全体でこれからの森づくりを考え、行動を起こしていこうという取り組みが2021年よりスタートしました。

森を整えることで、川や海も健康になり、その恵みを享受する私たち人間や動物の暮らしも安全で健やかなものに。そんなプロジェクトをご紹介します。

岩手町がつくる、美しい100年の森

岩手町の森林が占める比率は、なんと総面積の75%。東北一の長さを誇る北上川の源泉もあり、岩手町にとって森と水源は欠かせない存在です。というのも、森林から生まれる木材は再生可能な素材であり、豊かな森林は持続可能なまちづくりを進める岩手町にとって貴重な資源と言えるから。

しかし、木材価格の低迷や林業に関わる人口の減少など、いま森林を守り育てる環境は厳しい状況がつづいています。食糧のように林業も地産地消が大切で、地元の木材を利活用し、手入れの行き届いた森林を広げていくことは、温室効果を抑えたり土砂崩れなどの防災効果を高め、森林や川、ひいては海の生物多様性の維持・復元にもつながります。

持続可能で豊かな次代を拓く森林・ものづくりのあり方を考え、町のみんなで具現化していこう――そんな思いから生まれたのが、「美しい100年の森プロジェクト」です。

私たちの暮らしと森の関係

そもそも、森を守り育てることと私たちの暮らしにはどんな関係があるのでしょうか。山桜や紅葉など四季の変化を見る楽しみ? 夏休みのキャンプ? もちろん森が与えてくれるこうした楽しみもありますが、もっと長く大きなスケールで私たちの生活を左右する、密なつながりがあるのです。

地球上の生命体を育む要である「水」は、地上や水面から蒸発した雲から雨が降り、その雨が山を潤し、川になり、海に向かって流れ、状態を変化させながら循環しています。
この水の循環は、木がしっかり根を張っていないなど森の状態がよくないと「森の保水力」が落ちて土砂崩れが起きたり、それによって森や川で生きる昆虫や動物の生態系に変化が起き、熊や鹿や猪などが人間の田畑に食べ物を探しにきて……といった具合に、農作物の生産量に影響したり、人間と動物の安全性が確保されなかったり、本来里山で保たれていた人と動物の共生が叶わなくなってしまいます。

猟師の方々による猟で大事にジビエとしていただく生命の循環もありますが、上記のような問題を「害獣駆除」だけで解決するのも違う。害獣被害という「結果」だけに目を向けるのではなく、循環の要である森林を守り、育て、自然の摂理を壊すことなく、無理のない循環・環境保全をつくる施策に取り組むことが、いま人にも動物にも地球にも大切なことなのです。

  • 丹藤川で水浴びをする雄鹿

  • きのこは木からデンプンをもらい、そのお返しに土中の栄養を木に届ける。共生関係をもつ木ときのこのように、森にはたくさんの循環があります

  • 木から落ちた実や、動物の食べこぼしの実からまた芽がでて、大きな樹木になっていく

  • 里山の虫も、自然の循環を担う大事な構成員

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森の手入れを続けるために

今、岩手町が抱えているのは「町の林業の担い手不足」「兼業林業家の高齢化」「機械化が進んだことによる新規参入のしにくい状況」という3つの課題です。課題それぞれは影響し合っていて、新規参入が少なく林業の経営状況の低迷から雇用吸収力も弱いため、新たな林業の就業者(=担い手)が増えず、高齢化が進む一方という悪循環。このままでは、森の手入れが止まってしまいます。

人工林は、木を伐採しすぎてもよくないのはもちろんのこと、何も手入れしないのも問題。手入れのされていない森の中は、日光が行き渡らず低木が育成しないことで森林のバランスが崩れてしまうのです。

20〜30年スパンで区画にある樹木を全て伐採する「皆伐(かいばつ)」をすれば効率はいいものの、それまで日の当たらなかった場所に急に日光があたることで過度に地面が乾燥してしまうといったデメリットもあり、理想の森との付き合いは「間伐」を「高頻度で」「小規模で」行うこと――「多間伐」ではないか? と議論されています。

「美しい100年の森プロジェクト」で実施した勉強会の様子

「多間伐」が、木も新たな担い手も育てる

そうした「多間伐」を行えば、皆伐のように一気にドンと林業収入が入るのではなく、毎年こまめに収入が入ります。また、間伐せずに残った樹木は、適度に森林に差し込む日光によって大きく育つ。そうして伐採された木材は太く立派になり、森林自体の価値も高まっていくのです。こまめな間伐は、山の保水力を失うことも防ぐため、土砂崩れの防止にもつながります。

かねてから岩手町の林業者の方々には「伐採したら植樹をする」という山を守る文化があったそう。経済効率を重視した伐採が行われることが全国的に多かった時代でも、岩手町ではそんな「山を守る文化」があり、その持続可能な林業のあり方は代々林業の職人さんに伝承されてきたといいます。

そうしてつないできた文化を大切に、しかし産業としての収入も高める可能性のある「多間伐」を行うことが、新規参入や新たな担い手の背中を押す一役になることを期待しています。

プロジェクト内の研修で、持続可能な森づくりに欠かせない「森林作業道づくり」をするためのバックホーの操縦体験をしている様子

森を守る文化を、未来につなぐ

そんな人にも山にも優しい多間伐について、いま岩手町で関わる人を増やす試みがはじまっています。例えば、持続可能な森林資源の活用と生業の創出をしている森林経営の実践者や、若手の仲間たちと森づくりに挑戦中の実践者をゲストに招き開催した、「美しい100年の森プロジェクト 2022フォーラム」。

フォーラムの冒頭で話す、岩手町の佐々木光司町長

このフォーラムをきっかけに、森づくりに関心をもった方がチェーンソーの使い方を学んだり、作業道の近い方を学んだりといった活動に踏み出した方もいて、フォーラムを起点に「美しい100年のプロジェクト」に参加した方は約20名程いるそう。なかには盛岡からの来訪者、現在は一般の林業従事者だけれどいずれは独立して山の面倒をみたいと考えている人など、さまざまな“林業仲間”が誕生しました。

「美しい100年のプロジェクト」では、当プロジェクトを基軸に、100年というスパンのイメージでしっかり太く立派な木を育て、経済力も保水力もある美しい山が育まれることを期待し、これからも活動を続けていきます。

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